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さくらの熱量チャレンジ 第34回

臓器の輪郭入力や金属アーチファクト除去をAIで実現

放射線治療をAIで効率化するベンチャーと京都大学病院の挑戦

2019年09月04日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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日本の医療現場でのAI活用は遅れている

大谷:日本の医療分野でのAIの活用動向について教えてください。

今西:正直遅れています。たとえば、米国では昨年4月の段階で、AIが医療での確定診断までしてよいという判断が出ており、糖尿病網膜症をAIで判定できる医療機器が認可を通っています。中国ではスタートアップが開発したがん診断の支援システムがすでに300近くの病院で使われていて、誤診率は0.1%にとどまっています。

日本の医療分野でのAI活用は正直遅れています(今西氏)

一方、日本でも深層学習を用いた医療機器が認可を通っているのですが、薬機法の規制でアルゴリズムを成長させてはいけないのが現状です。結局データを誰が処理するのか、成長をどう判断できるのかという客観的な基準がないので、誰が責任を持つのかという判断がとても難しいんです。

大谷:事故が起きたときに責任を持つのが、運転者なのか、車なのかという議論を呼ぶ自動運転と同じですね。

今西:その通りです。とはいえ、米国では先日医師会側が責任を持たないという発表しているようです。だから、医療機器を作るメーカー側が責任を持つという話になりそうです。日本もそういった方向性になるのかなと思います。

大谷:なぜこうした国ごとの違いが生まれるのでしょうか?

今西:根本的にはデータ利用に向けた考え方があります。以前は個人情報保護の観点から、患者の明確な意思がなければ、医療データは利用できませんでした(オプトイン)。しかし、昨年の法改正によって、データ利用がオプトアウトになりました。つまり、患者が明確な意思表示をしない限りは、国の認可した機関はデータを匿名化して提供してよいことになったのです。でも、現時点では認可を通った機関がまだないと聞いています。

大谷:なるほど。スタートアップにとっては障壁が高いですね。

今西:ですから、現状では製薬メーカーとの提携や大学の共同研究という形でデータを得るしか方法がありません。医療ベンチャーに関しても、薬機法の規制がかかるので、製造販売の認可を持っているメーカーと提携していくのが現実的です。先行的な研究を進める医療系ベンチャーと、薬機法の認可は時間軸が違うので、ギャップを埋めるには大手メーカーとの提携という形になると思います。

とはいえ、今秋には成長するAIの利用が国会で審議を通ると思うので、医療機器AIのアルゴリズムを成長させることが可能になるはずです。日本の医療業界でもAIの分野で海外に負けてしまうという危機感は出てきているので、他に比べて法案化は早く進んでいると思います。CTやMRIの機器は多いので、本質的に日本は医療データベースを作りやすい国のはずなんです。

作業をAI化することで人間は学習の時間に充てられる

大谷:今後のAIの利用価値についてご意見と期待を教えていただけますか?

中村:今は輪郭入力の話ですが、本質的には治療計画自体もAIで支援してもらい、どこにどれくらい放射線を当てればよいかがわかるといいなと思います。われわれがデータベースから調べるのではなく、AI側から提案してくれるくらいでもいいです。それを実現できるくらいの症例をわれわれは持っていますから、輪郭入力もワンクリックで終了、治療計画もワンクリックで終了になるはずです。AI化することで節約した時間を、医師が線量分布を正当に評価するスキル向上等に充てる方が患者さんにとってはプラスになります。

AI化することで節約した時間を、医師のスキル向上に充てる方が患者さんにとってプラス(中村氏)

スピードだけではなく、精度も向上します。目に見えない放射線を患者さんの体に照射するのですが、その位置を合わせるための画像が、今まではそんなにきれいではなかった。画質が悪いので、位置合わせに悩むんです。でもAIを使って、画質を改善できれば、もっとスピーディに位置合わせができます。患者さんへのX線照射を少なくして高画質な画像を得る可能性もあります。こういったことをプロジェクトではどんどん進めているんです。

今西:現在、放射線治療データを扱えるエンジニアは日本では少ないのですが、弊社のソフトウェアエンジンは、京大病院をはじめ、さまざまな医療機関で稼働実績があるので、扱いやすい研究開発用のツールとして提供しています。ディープラーニングを扱う方々も使いやすいように、Pythonで簡単にデータを取り出して、機械学習につなげられます。放射線治療のデータを使えなかった企業と、データはあるけど放射線治療が最適化できなかった地方の医療機関をマッチングできたら、日本の医療もより技術向上できると思います。

中村:海外製品にわれわれの持つノウハウを入れ込んでもらおうと思うと、共同開発の申請を出す必要があります。英語ですし、やりとりも複雑。でも、今西さんや中尾先生とはものすごく近い距離感でプロジェクトを進めているので、われわれの知見とともにイーグロースさんが世界に出て行くのを期待しています。

今西:せっかくの産学連携なので、僕たちもきちんとアウトプットを出していきたいと思っています。

大谷:ありがとうございます。

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