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最新ユーザー事例探求 第46回

Salesforce+Boxが中核の研究者支援システム、研究効率向上と経営視点の「強み」把握

東京理科大が国際競争力向上に向け構築した「VRE」の狙い

2017年07月12日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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ChatterとBoxで、学外共同研究者も含む柔軟なコラボレーション環境

 VREが提供するもうひとつの機能、学内外のコラボレーションを活性化する柔軟なコミュニケーション環境については、ビジネスチャットツールの「Salesforce Chatter」やBoxによって実現している。

 前述したとおり、それまでのコミュニケーション環境では「メール」が主要な位置を占めており、データのやり取りは添付ファイルによるケースが多かったという。だが、そもそも大容量データのやり取りには向いていないうえ、グループ内でやり取りしていくうちに異なるバージョンのファイルが多数出来ていく問題があった。もちろん、セキュリティ上の懸念もある。

 さまざまなクラウドファイル共有サービスが存在する中でBoxを選択した理由について、松田氏は「使い勝手の良さ」と「管理機能」のバランスが良かったことを挙げた。実は、すでに「Google Drive」や「Dropbox」などを“シャドーIT”として利用している研究室もあり、これらも比較検討したが、求める管理機能が十分ではなかったという。

 「われわれの場合は、詳細な操作ログが取得できるエンタープライズクラスの管理機能と、コンシューマーライクな操作感の両方を必要としていました。セキュリティはもちろんなのですが、先生も学生もこうしたクラウドサービスの利用には慣れており、使い勝手が悪ければ使ってもらえませんから。ここは、一般企業とは少し事情が違うかもしれません」(松田氏)

 また、海外の政府機関や医療機関、大学などで採用実績が多く、セキュリティ認証も得ていること、ファイルのバージョン管理に対応していること、ブラウザベースでどんなOSでも使えること(同大学ではMacやLinuxの利用も多い)なども、サービス選定においては評価のポイントになったという。

 「もっとも、利用者である先生方にいちばん説明しやすかったのは『容量無制限で使える』という点でしたが(笑)」(松田氏)

Boxを中心にすることで、メールの添付ファイルにあったさまざまな課題が解消できた

 ちなみにChatterもBoxも、学外のユーザーをコラボレーションに招待することができる。そのため、前述したVREポータルにはアクセスできない企業の共同研究者とのコミュニケーションにも柔軟に活用できる。

 またVREは、すでに導入されているOffice 365も含めてSAML 2.0ベースのSSO環境となっており、現在では新たなコミュニケーション手段として、VRE上の教職員名簿からワンクリックで「Skype for Business」によるWebミーティングを開始する環境も整っている。

研究から「教育」へ展開、Boxの利用ユーザーを全学に拡大

 Boxに関しては、2015年4月から教職員に展開を開始して利用が定着したあと、2016年9月から大学院生や卒業研究生に、また2017年4月からは学部生にも利用を展開している。実際にBox利用に慣れた教員からは、研究だけでなく教育(授業)にも早く活用したいという声が上がっていたという。

今年4月からは学部生向けにもBoxの提供を開始した

 授業での活用においては、オープンソース(OSS)のラーニングマネジメントシステム「Moodle」とBoxとのAPI連携を行っているという。たとえば、教員がMoodle上でレポート課題を発表すると、学生はBox上でレポートを作成し、そのままBoxで提出できる。「PCのローカルドライブを一切使わずにレポート作成できますので、学校でも自宅でも、PC環境を問わずにレポートが作成できます」(松田氏)。

 また、幅広いファイル形式に対応したビューワー機能も、理系大学としては重宝しているという。一般的なドキュメントファイルや画像だけでなく、動画や360度画像、さらには3D CADデータなども、環境を問わずブラウザ上で閲覧できるからだ。

幅広い形式のファイルもブラウザから閲覧できるメリットがある

 同大学では毎年およそ5000名が入学するため、ユーザー管理は手作業ではできない。松田氏は、ユーザー管理には丸紅ITソリューションズ製のツール「CSV Sync for Box」を採用していると紹介した。これはCSVファイルとしてユーザーリストを作成すると、差分を読み取ってBoxアカウントを新規登録してくれるツールだ。

* * *

 今後のVREの展開について尋ねたところ、松田氏は、Salesforceの「Wave Analytics」を活用して現在のダッシュボードをよりリッチなものにし、経営層がBI的な使い方をできるようにしていきたいと語った。

 また積田氏は、公募研究の情報と応募内容、その結果(外部資金の獲得)のひも付けについて、すでに具体的な要望が上がっていると答えた。経営側としては同大学、そして各教員がどのような公募案件に「強い」のかを知りたいと考えており、そのためにこうした情報を必要としているという。

 「こうしたデータが集まれば、各先生に応募を促す働きかけにも結びつけることができます。将来的にはAIが各先生の『強み』を学んで、『この案件に応募したら資金が獲得できそうです』とレコメンドする仕組みができるかもしれませんね(笑)」(積田氏)

 「先生にとって研究と教育以外は、要は“雑務”なのです。IT活用でそうした雑務の負担をなるべく軽減し、研究や教育に没頭していただける環境を提供していきたい」と松田氏。情報システム課が支える「世界の理科大」に向けた取り組みは、これからも続いていく。

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