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最新ユーザー事例探求 第45回

AWS導入の理由は「IT部門の役割が変化したから」

プライベートクラウドの黒歴史を乗り越えた近畿大学のクラウド移行の道

2017年04月25日 10時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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AWS導入の課題はレガシーシステムのネットワーク遅延

 AWS導入に際して一番問題になったのは、ネットワークの遅延だ。学内のインフラからパブリッククラウドにサーバーを移行したことで、こうした問題の顕在化は当然予想できたが、特にバッチなどヘビーな処理が集中するところでは、こうした問題が顕著だという。

「どれだけAWSが速くても、一気に1万件、10万件の処理をさせると、プライベートクラウドと比べて小さなネットワーク遅延が積み重なってボトルネックになってきます。UIのレスポンスでは許容範囲なのにも関わらず、今まで2時間で完了していたバッチ処理が、AZ(Availability Zone)をまたぐことで遅くなってしまったり、オンプレミス前提のアプリケーションで性能が出ないというのが、一番多いですね。やはりアプリケーションがクラウドネイティブな設計で作られる必要があると思います」(前川氏)

24時間利用可能な250席の自習スペースも用意されるという

 とはいえ、これはクラウドマイグレーションでの過渡的な現象と見ている。データがオンプレミス、アプリケーションがクラウドといった形で結果的にハイブリッドの構成になってしまうと、こうした問題が特に顕著になるので、移行作業は慎重にやっているという。オンプレミス前提のアプリケーションの場合、たとえば一度に送るデータ量を変えるといった対処療法で、フルクラウドまでの移行期を乗り切る方針だ。

 ネットワーク遅延の課題で、教育研究系のシステムもまだまだ全面移行は難しいと考えている。現状、AWSに移行したのは、前述したWebサーバー、スパム対策サーバー、DNSサーバーのほか、ID管理システムの「LDAP Manager」くらい。まだ多くのサーバーが学内のプライベートクラウドで動作しているという。

「現状、教育研究系のシステムでは、Active DirectoryやLDAPサーバー、ファイルサーバーなどが残っていますが、これらはクラウドに移行してもあまりメリットがないと考えています。たとえば、Active Directoryは学内のパソコンの認証に使っていますが、クラウドに移行すると遅延が大きくなります。ファイルサーバーも容量が大きいので、クラウドに移行しても、遅延は大きいし、コストもかかります」(高木氏)

 もちろん、すべてをクラウドに移行したいという高木氏の想いは変わらない。そのため、学生のBYOD(Bring Your Own Device)の取り組みが進んできたり、Google Driveのようなクラウドストレージへの移行が現実的になったり、教育用のアプリがそろったDesktop as a Serviceが安価に提供されるようになれば、クラウドに移行する価値があるという。今は待ちの状態。教育機関向けのサービスが充実してきた段階で、クラウド化していくのが当面の方針だという。

学生が好きなだけクラウドを使える環境を用意したい

 もう1つの課題はコスト。近畿大学の場合、Amazon EC2へのサーバーマイグレーションというもっともシンプルな方法でクラウド移行が進められているが、これだけだとコストはあまり下がらないという。目的がコスト削減でないとは言え、やはり経営陣へのコストアピールも無視できない。

「24時間365日運用するようなサーバーを単純に移行しただけだと、AWSの場合、おそらくそれほど安くならない。ベンダーの保守費用を積んでいたうちの場合は、以前に比べて安くなっていますが、使い方によってはむしろ高くなる場合もあると思います」(高木氏)

 これに対しては、やはりマネージドサービスとSaaSを導入し、省力化や自動化を追求していく方針。人手による作業と不要なサービスを減らせば、もっとクラウドに最適化できるというのが高木氏の持論だ。

「今はクラウドネイティブじゃないシステムがまだまだいっぱいあります。たとえば、教務システムのDBはAmazon RDSで提供されていないミドルウェアを使っているため、EC2上に立てていますが、これもマネージドサービスを使えば、わざわざインスタンスを立てる必要なくなります。それらをクラウドに最適化していくと、可用性も上がり、稼働もかからず、コストも下がっていくと思います。そこまで来て、初めて自分もしっくりするんだろうなあと」(高木氏)

セキュリティを考慮し、女子専用自習室を設置

 AWSのイベントにも参加している高木氏としては、やはりLambdaやAmazon Machine Learning、Redshift、Amazon EMRなどは気になる存在で、今のマイグレーション作業はこうしたサービスを使うためにやっているという。そして、今後は学内で自由にクラウドを利用できる環境を構築していきたいというのが、高木氏の野望だ。

「今はマイクロソフトと包括契約結んでいるので、OfficeはBYODのマシンに自由にインストールできるのですが、今後もいろんなアプリケーションを利用できる環境を作りたいですね。立派なパソコン教室を作るより、マシンは自身で持ち込んでもらって、AWSやAzureが使い放題という環境を提供した方が、学生は喜んでくれるのではないかと思います。今後はどんな業種でもクラウドが必須だと思うので」(高木氏)

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