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学生もリモートワークな大阪産業大学の高橋・山田研究室

卒論も就活も飲み会スケジュールもkintoneなゼミに行ってきた

2018年01月30日 09時00分更新

文● 重森大

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学校法人大阪産業大学 デザイン工学部情報システム学科にある高橋・山田研究室。音声分析や教育について研究するこちらのゼミでは、全学生がkintoneを使っている。教育現場でグループウェアを活用してリモートワークを体験させることで、学生に実践的なIT利用法を身につけてもらうのがひとつの目的だ。学生や教員がどのようにkintoneを使っているのか、大学を訪ねてゼミを運営する高橋 徹さんや山田 耕嗣さん、さらにゼミに所属する学生さんたちに話を聞いた。

アプリ作成の演習科目でkintoneを実体験、ゼミでの運用へ

 kintoneと山田さんの出会いは、2014年に大阪で開催されたサイボウズカンファレンスだった。当初はノンプログラミングでアプリを作れるという点に魅力を感じ、2年生の演習科目に取り入れた。

 いまやどの業種でもITは欠かせない。ITを使いこなすために必要な、理論的な思考を学ぶためにアプリづくりを体験させる演習科目も用意されているが、デザイン工学部の学生がコーディング技術を身につけるだけでは心許ない。その点、プログラミング言語を習得する必要なく、アプリ作成を経験できるkintoneはぴったりだった。しかし演習科目で使ううちに、より実践的な使い方をさせた方が効果的なのではないか、そう考えるようになったという。

「アプリを作るだけの科目で使うより、研究室でコミュニケーションに使う方がいいのではないかという話になったんです。自分たちでアプリを作り、それを自分たちで使う。完成されたグループウェアを導入するのとは違い、自分たちの活動に必要なアプリについて考え、作り、改良していく経験もできます」(山田さん)

大阪産業大学 デザイン工学部情報システム学科 講師 山田 耕嗣さん

 こうして2016年度から高橋・山田研究室では、ゼミに参加する学生たちがkintoneを使うようになった。試行錯誤しながら数々のアプリが作られ、今では5つ程度のアプリが中心的に使われているという。高橋さんと山田さんのスケジュールを確認するのもkintone、卒業論文を提出するのもkintone、就職活動の進捗報告もkintoneという具合に、ゼミ生にとってなくてはならない存在になっている。

卒論の進捗も就活の進捗も、すべてkintone上に記録

 高橋・山田研究室でのkintoneの使い方は、ちょっとした事業所並みだ。営業日報と同じように、卒業論文や就職活動の進み具合を入力していく。入力した情報は高橋さん、山田さんがチェックしてコメントを返す。卒業論文の書き方についてコメント欄で相談が進むこともある。こうした日々のやりとりがオンライン化しているので、学生たちは必ずしも毎日研究室に顔を出す必要がない。毎週1回設けられている経過発表の時間以外は、それぞれの好きな場所でリモートワークができる。

 kintoneアプリの中には、高橋さんと山田さんのスケジュール表もある。教員に相談したい用事がある場合には、このカレンダーを見て研究室に足を運べばいい訳だ。さらに、kintoneにログインしてすぐに表示されるおしらせ画面には、研究室に人がいるかどうかがほぼリアルタイムに表示されている。この表示をチェックしてから出かければ、ゼミ生同士で相談したい場合にも無駄足がない。

ログイン後に表示されるお知らせ画面に在室/不在の表示がある

「研究室に置かれたRaspberryPiが1分おきに照度を計測して、API経由でkintoneに送信しています。その情報をもとにJavaScriptで在室アイコンか不在アイコンを表示する仕組みになっています」(学生)

照度計のデータから研究室に人がいるかどうかを判断

 毎週の経過発表でも、それぞれの学生は教員のPCで開かれたkintoneの画面から自分の資料をダウンロードして、プレゼンテーションを行なう。これが実にスマート。発表者がそれぞれ自分のPCを持ち込むと、プロジェクターにうまく画面が出なくて手間取ったり……というのは勉強会でよく目にする光景だ。ITエンジニアが集まる勉強会でさえそんな具合だというのに、高橋・山田研究室の学生たちは教員のPCの前に順番に立ち、自分の資料をそこにササっと表示してプレゼンテーションをしていくのだ。画面が映らない、資料が見つからない、なんていう不手際がなく、見ていてもストレスがない。

進捗状況のプレゼン資料もkintoneで共有しているので発表がスムーズ

 卒業論文の進捗と同様に、就職活動の進捗もkintone上に記録されている。最初は日報アプリとして1つのアプリに記録していたが、異質な情報が混ざってしまうので卒業論文と就職活動の記録をそれぞれ分けたとのこと。もちろん、就職活動の進捗に関しても教員からのコメントがつき、そこで次のステップに向けたアドバイスがあったり、それに対する相談が行なわれたりしている。

記録することのメリット、可視化することのメリットを自分たちで実感

 卒業論文はともかく、就職活動の進捗までkintone上に入力し、同じ研究室の学友に見られるというのはどういう気分なのだろうか。そのあたりについて研究室にいる学生数人に話を聞いてみた。そもそも、そういう情報を日々入力して共有するという習慣がなかったので、最初はやはり面倒くさかったようだ。

「最初は、書かないと怒られるから書いていました。でもそのうち習慣になり、今では入力するのは苦になりません。ただ、自分の活動記録とそこに付けられたコメントを見られる恥ずかしさは、やっぱりありますね」(学生)

 たとえば卒業論文であれば、書きかけの論文に対して教員から誤りの指摘や、書き方のアドバイスなどのコメントがつく。みんなの前で公開添削されているようなものだ。それはやはりいい気分ではないだろう。しかし、この情報が共有されることのメリットの方が大きいことに気づき、恥ずかしさは気にならなくなったそうだ。

「友人の論文に付けられた先生のコメントが、自分の論文を修正する手助けになるんです。論文ならではの書き方や資料の掲載方法などは研究対象に関わらず共通しているので、友人への指摘やアドバイスがそのまま自分にも役立つんです。そう考えると見られる恥ずかしさも、お互いさまだと思うようになり、気にならなくなりました」(学生)

 お互いに情報を出し合っていくことで自分が得られる情報も増える。アウトプットファーストの精神に近い感覚を、学生のうちから実感で理解しているのだ。もちろん役立つのは他人の情報ばかりではない。「あのときどうしたっけ」と、日記のように自分の日報を読み返すことも少なくないそうだ。情報は蓄積されてこそ力を発揮する。そのこともわかっているに違いない。

kintoneにアクセスさせる工夫を通じてコラボレーションを日常化

 入力を促すだけではなく、kintoneにアクセスして日々の情報をチェックする習慣をまず身につけなければならない。そのために高橋氏が取ったのは、通知をすべてオフにするというものだった。

「通知が届くと、その通知をタップしてkintoneにアクセスしますよね。そうすれば見逃すことはなくなりますが、通知されたものしか見なくなるんです。先程学生が言っていたような、友達と先生のやりとりなどは目に入らなくなります」(高橋さん)

 通知がなければ、自分から定期的にkintoneを開かざるを得ない。教員の予定だけではなく、飲み会などイベントの予定もそこに書かれているので、見逃せない。こうしてまず毎日アクセスする習慣が身につき、情報を入力する習慣が身につき、やがてそこにある情報をうまく活用する習慣が身についていく。単なる論文データ置き場ではなく、コラボレーションの基礎を体験で学んでいく。これらの話を聞いていて、筆者は正直に言ってうらやましかった。これから働き方はどんどん自由になる。そのときに使うツールがkintoneとは限らないが、オンラインコラボレーションツールを使わなければならなくなるだろう。その方法を、そこで得られるメリットを学生の時分から身につけられるなんて!

「研究室だけではなく、私の担当する授業ではレポーティングツールとしても使い始めました。kintone上でレポートを書いてもらい、コメント欄でやりとりするスタイルを実験中です」(山田さん)

 高橋さん、山田さんの取り組みによって生まれる、デジタルネイティブを超えた「オンラインコラボレーションネイティブな人材」。既存の企業が彼らについていけるのか、そちらを心配してしまうほどに彼らは、リモートワーク、オンラインコラボレーションを当たり前のこととして語っていた。期待もあるが脅威でもある。働き方の多様化を先取りした彼らが、これから先輩社員たちを牽引して企業を変えていく力になるのかもしれないのだ。

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