最新パーツ性能チェック 第210回
TITAN Xとの戦いは、エンスージアストに何をもたらすのか?
新GPU「GeForce GTX 1080Ti」の性能を最新ゲームでベンチマーク
2017年03月09日 23時00分更新
強化クーラー版が待たれる熱設計
では消費電力と発熱をチェックしよう。GTX 1080Ti FEの設計において、デュアルFETを倍増させることで電力効率を改善したこと、DVIコネクターの部分を丸ごと排気孔とすることで発熱に対処したと解説したが、これは本当なのかチェックしたい。
まずはシステム全体の消費電力を比較する。システム起動10分後の安定値を“アイドル時”、3DMarkの“Time Spy”デモ実行中のピーク値を“高負荷時”としている。
電源回路の変換効率を上げたとはいえ、GPUコアもメモリーもクロックが上がっているのだから消費電力が増えるのは道理。結果的にTITAN Xよりも消費電力は増大している。描画性能はほぼTITAN XとGTX 1080Tiは同格だから、ワットパフォーマンス的にはGTX 1080Tiはやや後退したと言わざるを得ない。OC版にするとさらに消費電力が増えるのは確実だが、それを性能向上でどれだけ帳消しにできるか、各メーカーの手腕が問われるところだ。
では今回用意した3枚のビデオカードで「Watch Dogs 2(4K最大画質設定)」を約30分放置プレーし、ゲーム終了後10分間放置した時のGPU温度とクロックの推移を「HWiNFO64」で追跡した。
さすがにゲームだと発熱的に同じ負荷にするのは難しいため、それぞれのカードの冷却力の限界まで回ってしまうようだが、それでもGTX 1080Tiの方がTITAN Xよりも2~3℃前後低い値を示している。消費電力はGTX 1080Tiの方が上なのだから、DVI端子を排気孔にしたぶんの冷却力アップは確実になされている、と言うべきだろう。
だがFEのクーラーで冷却力は十分か、というとそうでもないようだ。次のグラフはGPUクロックを追跡したものだ。
3つのGPUはどれもゲーム再開直後に最高クロックを示し、それ以降小刻みに上下しながらクロックを下げていく。一番高クロックを維持できたのはクーラーに対しTDPが余裕のあるGTX 1080無印であることはまあ当然として、GTX 1080Tiはガッツリとクロックを下げている点に注目したい。
ゲーム終了間近(時間軸では27分~31分あたり)でのGTX 1080Tiの実測クロックの最低値は1506MHz。これは前述のブーストクロック1582MHzより低い。GTX 1080Ti FEのクーラーは確かにTITAN Xよりも効率はよくなったが、それでもキッチリ冷やしきれている感が乏しい。GTX 1080Tiの性能をフルに引き出したいなら、FEを水冷化してガッツリ冷やすか、サードパーティー製の強化クーラーモデルを選択するのが良いのではなかろうか。
FEよりも独自設計モデルが狙い目
699ドルのカードがなぜ日本で税込12万程度になるのか……という日本国内限定の議論は脇に置いておくと、今回のGTX 1080Tiのパフォーマンスは素晴らしい。明らかにAMDのVEGAを意識したスペックや値段設定であるといえるが、既存のTITAN Xユーザーを打ちのめす製品でもあることは間違いない。
あえてTITAN XユーザーがGTX 1080Ti FEに買い換えるメリットはないが、後発の高付加価値なOCモデルが出てきたらどうなるか……。いずれにせよ、グラフィックリッチなゲームを最高の画質で攻めたい人には、ぜひともゲットして欲しいカードになったことは間違いない。
しかし分からないのは今回のNVIDIAの戦略だ。TITAN Xよりも安くて性能が同等なGTX 1080Tiを出した、というこの状況を別の角度から眺めると、NVIDIAはTITANブランドの優位性を放棄してでもエンスージアストにアピールしたかった、という点は理解できる。だがこれはTITANブランドに傷をつけたことにほかならない。
NVIDIAがTITANブランドに対する救済……つまり“金で買える最高のビデオカード”というバリューを復活させるには、GTX 1080Tiの上をいく何かが必要になる。フルスペックGP102(つまりQuadro P6000のコンシューマー版)か、まだ見ぬVoltaベースで新TITANを作ることが予想できる。次の一手は果たして何か? 今年はますますNVIDIAとAMDから目が離せなくなった。
この連載の記事
-
第456回
デジタル
「Ryzen 7 9800X3D」は高画質設定でも最強ゲーミングCPUであることに間違いはなかった -
第455回
デジタル
「Ryzen 7 9800X3D」が最強ゲーミングCPUであることを証明する -
第454回
デジタル
性能が最大50%引き上げられたSamsung製SSD「990 EVO Plus」は良コスパSSDの新星だ -
第453回
デジタル
性能も上がったが消費電力も増えた「Ryzen 7 9800X3D」最速レビュー、AI推論の処理速度は7800X3Dの約2倍! -
第452回
自作PC
Core Ultra 200Sシリーズのゲーム性能は?Core Ultra 5/7/9を10タイトルで徹底検証 -
第451回
自作PC
Core Ultra 9 285K/Core Ultra 7 265K/Core Ultra 5 245K速報レビュー!第14世代&Ryzen 9000との比較で実力を見る -
第450回
デジタル
AGESA 1.2.0.2でRyzen 9 9950Xのパフォーマンスは改善するか? -
第449回
デジタル
Ryzen 9000シリーズの性能にWindows 11の分岐予測改善コードはどう影響するか? -
第448回
デジタル
TDP 105W動作にするとRyzen 7 9700X/Ryzen 5 9600Xはどの程度化ける? レッドゾーン寸前を攻める絶妙な設定だが、ゲームでの効果は期待薄 -
第447回
デジタル
Zen 5とTDP増でゲーム性能は向上したか?「Ryzen 9 9950X」「Ryzen 9 9900X」の実力チェック -
第446回
デジタル
「Ryzen 9 9950X」「Ryzen 9 9900X」は“約束された”最強のCPUになれたのか? ベンチマークで見えた利点と欠点 - この連載の一覧へ