中国におけるエヌビディア(Nvidia)の優位が揺らいでいる。
現在、エヌビディア製の高性能GPUは、AI関連のサービスの開発や提供の市場において、圧倒的な優位にあるが、米政府が、中国向けの高性能チップの輸出を規制したことで、ファーウェイ(Huawei)をはじめとした中国産のチップが同国市場でシェアを伸ばしている。
ロイターは2026年4月1日、中国のGPUとAIチップメーカーは2025年、合計で41%のシェアに達したと報じた。ソースは、IDC(International Data Corporation)というIT分野専門の市場調査会社による調査結果だ。中国製チップのうち、ファーウェイが20%を占めているという。米政府が中国に対する輸出規制に踏み切る以前には、エヌビディアは、中国市場の95%を握っていた。
バイデン政権時代の米政府は2022年10月、AIの学習に必要な計算を行う高性能GPU、A100とH100について、中国への輸出を事実上、禁止した。米中両国の緊張が高まる中、中国側は、GPUをはじめとした半導体の国産化を進めていたのだが、中国側の「脱米国」の流れが市場調査の結果などから可視化されるようになってきた。
すでに中国からは撤退状態か
中国の脱米国を示す調査結果はほかにもある。
米国のIT専門メディアTom's Hardware(トムズ・ハードウェア)は2026年1月17日、中国におけるエヌビディアのシェアは、2026年末までに8%程度にまで落ち込むとの予測を報じた。このメディアのソースは、バーンスタインという投資銀行による調査の結果だ。一方で、ファーウェイのシェアは50%程度にまで拡大するとみられている。
こうしたAI向けのGPUは、おもにデータセンターの計算設備に使われる、いわば業務用の半導体だ。エヌビディア側は、もっとも高性能のチップの輸出が禁じられると、中国向けに性能を落としたモデルを提供することで対応してきた。
しかし、2025年1月にバイデン大統領からトランプ大統領に政権が移行した後も、さらに中国に対する強硬姿勢が強まり、性能を落としたGPUも輸出できなくなった。
FORTUNEの報道によれば、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは2025年10月、投資家向けのイベントで、「中国における市場シェアは95%からゼロになった。すべての業績予測で、中国の売上を0%と仮定している」と述べ、中国市場からの事実上の撤退を認めている。
中国のIT大手がファーウェイ大量採用?
中国製のAIの台頭は、およそ1年前にさかのぼる。
2025年1月、DeepSeekの新しいモデルR1が発表されたことをきっかけに、エヌビディアの株価が急落した。R1は、低コストで開発されたとされるモデルだが、GPT-4oやClaude 3に匹敵する性能があると評価された。このため、市場には、「エヌビディアの高性能チップを大量に投入しなくても、高性能のAIは開発できるのでは?」という疑念が高まり、エヌビディア株が売られたとみられている。
ただ、現時点では、どうやら開発段階のAIの学習には、やはりエヌビディアの先端半導体の性能が欠かせないようだ。一方で、中国では、市場への投入段階に達したモデルの運用については、性能面でエヌビディアに及ばないとされるファーウェイのGPUへの移行が進んでいるとみられる。
2026年3月27日のロイターは、動画アプリTikTokを運営するバイトダンスや、EC最大手のアリババが、ファーウェイの最新チップAscend 950PRについて、発注を計画していると報じた。
AI市場におけるエヌビディアの優位はハード(GPU)の性能にとどまらない。CUDAというプログラミング環境の存在により、ソフト面でも絶対的な優位を維持してきた。CUDAは、GPUをAIの開発や、科学計算に最適化する環境で、事実上、世界中の開発者や研究者たちの共通の基盤になっている。
しかし、ファーウェイは、Ascend 950PRで初めてCUDAとの互換性を持たせたと報じられており、CUDAとの互換性が実用レベルに達している場合、中国のIT大手にとって、脱エヌビディアを進める環境が整ったということになる。
現時点ではおそらく、AIの開発段階ではエヌビディアの優位は揺らいでいないが、中国では、最先端の性能までは求められないサービスの提供においては、ファーウェイなどのチップへの代替が進む可能性がある。もともと、米国が中国へのGPUの輸出規制に踏み切った理由のひとつに、AI分野における優位の維持があったが、この政策は結果として、中国側の追い上げを加速してしまったようにみえる。
筆者──小島寛明

1975年生まれ、上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒。2000年に朝日新聞社に入社、社会部記者を経て、2012年より開発コンサルティング会社に勤務し、モザンビークやラテンアメリカ、東北の被災地などで国際協力分野の技術協力プロジェクトや調査に従事した。2017年6月よりフリーランスの記者として活動している。取材のテーマは「テクノロジーと社会」「アフリカと日本」「東北」など。著書に『仮想通貨の新ルール』(ビジネスインサイダージャパン取材班との共著)。
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