三原社長に聞く「時空を超えたチーム農業」
「農業未経験」から「巨大レタス工場」へ、NKアグリの挑戦
2016年03月18日 06時00分更新
見よ、この一面に広がるレタスを!
ここは和歌山県和歌山市、ノーリツ鋼機の子会社であるNKアグリの大規模レタス工場だ。この場所でサイボウズのクラウドサービス「kintone」が利用されていると聞き、見学に行ってきた。
およそ3000坪のこの場所から、毎日6000パックものレタスが出荷されている。「AQUA LEAF」のブランド名で都内でも販売されているため、ご存知の方もいるだろう。
この場所以外でも、全国の農家とコラボして「リコピン人参」(リコピン含有の機能性野菜)を生産。各地でバリューチェーンを築いた地域貢献度が評価され、総務省「地域情報化大賞 2015」で「地域サービス創生部門賞」にも輝いている。
しかし、2009年の創業時は「農業経験者ゼロ」だったという同社。整然とレタスが育つこの光景からは想像もつかないのだが、未経験からどのように、これほど大規模なレタス工場を軌道に乗せたのか。
代表取締役社長の三原洋一氏に訊く。
「AQUA LEAF」誕生秘話
NKアグリはノーリツ鋼機の子会社として2009年に創業した。ノーリツ鋼機は写真現像機の製造・販売で世界を席巻し、「日本の製造業」の一時代を築いた企業だ。ところが、デジタルカメラの台頭により栄枯盛衰。「第2の創業」の決意で、2009年から省エネ・食・医療の新事業に踏み切った経緯がある。
そのうちの食の事業を担うのがNKアグリだ。食の原点である農業に挑戦。ノーリツ鋼機の広大な敷地内に3000坪の野菜工場を建設し、「未経験からの野菜づくり」を開始した。採用したのは「水耕栽培方式」。「いわゆる植物工場で、計画的に生産・出荷する手法なので、工業出身の我々にも向いていると考えた」と三原氏は語る。
だが、そこは未経験。当初は失敗だらけだったという。
「最初はネギを作ろうと思ったが、作り始めるとトラブルだらけ。作れても手間がかかりすぎるということで断念した。その後もあらゆるものを作っては失敗を経験し、ある時は肥料が適正値から大きくブレていたので一気に戻そうと肥料を加えすぎて、全栽培量の1/4を一気に枯らせたことも。ただ、水耕栽培は生産・出荷のサイクルが早くトライアンドエラーがしやすいので、そうやって試行錯誤しながら、データ観測を徹底した。作業や生育状況がデータで可視化されてくると、肥料のやり方などもコツとして掴めるようになっていった」(同氏)
そうした試行錯誤の末にたどり着いたのが「レタス」である。三原氏によれば「作りやすく、需要もあり、水耕栽培に適していた」という。
「AQUA LEAF」生産工程
その生産工程は以下のとおり。
収穫されたレタスは1つ1つ品質チェックした上で包装され、各地に出荷される。シャキシャキで苦味が少なく、サッと水洗いして食べられる手軽さが“売り”とのことだ。
データ分析で分かったコト
強みは、創業時から徹底してきたデータ観測。「未経験だったがゆえにデータにすがるしか方法がなかった。おかげでデータを見返すという癖が作れた。どういう環境が生育に最適なのかが見えてきたおかげで生産量は30%増加し、4年で収益が出せるようになった」と三原氏はいう。
また、こんな興味深い話も。「データ分析で分かったのは、農業のこれまでの経験・知恵がいかに正しいかということ。栄養素を見ても、旬とされる時期はデータ的にも美味しいと分かる。ICT農業というとこれまでにない新しい農業と思われがちだが、そうではなく、これまでの農業をデータで裏付けていくこと。経験知の根拠を明らかにしていくところに価値があるのだと思う」(三原氏)
なんとなくだった経験知がデータとなって可視化されると、さまざまな応用が利くようになる。実際、NKアグリでは医療機関・大学・生産者・企業と連携。例えば、医療機関とは「野菜の機能性成分の医学的な有用性」を、農家とは「栽培方法と収量・品質との相関関係」などを共同研究している。
その成果とも言えるのが、全国の農家と提携して生産するリコピン人参「こいくれない」である。一般の人参にはほとんどないリコピンを豊富に含んでおり、リコピンは抗酸化作用が高く、商品としては甘みが強いのが特徴だ。しかし、もう1つ大きな特徴として「生産の仕組み」にも驚くべき秘密がある。
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