ボイス・シンセサイザーがマイク/テキスト入力両対応は
実験中の賜物
―― じゃあ、次はボイス・シンセサイザーの話をしましょう。「VC-10」のエミュレーションと思ったらそうでもないので、どういう扱いなんだろうなあと。
中島 DS-10の移植ではなく、新しい要素をなにかしら入れたいとは思っていたんです。
金森 「次になに作ろうか?」という話があって、最初はみんな好きなことを言っていたんですが、中島が「ダフト・パンクのような歌うパターンを鳴らしたい」と言い出しまして。じゃあ、これですよ、と。「microKORG」や「MS2000」の後継機種で「RADIAS」や「R3」というシンセがあって、それにフォルマント・モーションという機能を載せていたんです。しゃべった声の動きを記録するもの。しゃべるとフォルマントが動くじゃないですか。
―― はい。人の声は、3つくらい倍音成分のピークがあって、その遷移が言葉に聴こえるわけですよね。
金森 そうです。そのフォルマントの動きを録音するという機能を搭載していまして、各バンドのレベルを検知して、それをシーケンサーに記録していくんです。それをフィルターバンクの動きで再生するとしゃべるように聴こえる。それをここに持ってこようとなり実験を開始しました。
―― いや、それは贅ぜいたくな話じゃないですか。
金森 でも、実験するために自分で「チェック、ワンツー」だのなんだのマイクに向かってひたすら声を出し続けるわけですが、会社の周りの人も聞いているじゃないですか。それが嫌でしょうがなかったので、パソコンのテキスト・トゥ・スピーチ機能を使って静かにフォルマントの録音を実験していたんですが、それがロボット・ボイスとしておもしろかったんですよ。
―― それでマイク入力だけでなく、テキスト・トゥ・スピーチの機能も付いたと。
金森 はい。どちらかに絞ろうという話もあったんですが、メロディーに合わせて簡単に録音できるよう、マイク入力も残しました。だから新しいことではなくて、既存の技術の組み合わせなんですけどね。
―― なるほど、ボコーダーを載せているのに「VC-10」云々と言わない理由がわかりました。
金森 そうですね、VC-10の忠実再現とかではないんです。なにかおもしろいことを探していたら、ここにたどり着いた。まず、ボコーダーの声っておもしろいじゃないですか。それ自体がテクノだし、リアルな声を目指してないんです。アナログシンセのよさと一緒で、テクノっぽい声が出ればいいやっていう。そういえば、四本さんの大昔のインタビューで、DS-10でボコーダーやってくださいって、言ってましたよね。
―― えーっと、言ったような言ってないような?
金森 そのときに僕は、じゃあDSのスピーカーを口に当てて、トークボックスみたいに使えばできますよって。
―― ああ、それ家でずっとやってましたよ。懐かしい!
(次ページでは、「そして謎音源の正体は?」)
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