さまざまなテクノロジーと融合しながら進化を続けているデジタルマーケティング。その一方、FacebookやTwitterといったSNSを活用したキャンペーンはすでにやりつくされた感もあり、ユーザーを驚かせるような新規性のあるキャンペーンは難しいと考えている人もいるかもしれません。
しかし、依然として拡散力の高いSNSを活用することは、プロモーションのアイデア次第で高い効果を期待することができます。今回はFacebookやTwitter、Instagramから、海外で話題となったキャンペーン事例を紹介しましょう。
驚異の売上250%!その日の割引率を決める「いいね!」
最初に紹介するのは、ルーマニアの大手スーパーマーケット「BILLA」のFacebookを活用したキャンペーン事例です。
同社ではほかの大手企業と同じようにSNSによるマーケティングを実施していましたが、なかなかそれが効果的な売上につながらないという悩みを持っていました。その問題を解決するために同社が考えたのが、Facebookのエンゲージメントを高めるためのキャンペーンを打ち出すことです。
「Social Retail Discounts」と名付けられたこのキャンペーンでは、まずFacebook上に商品写真を掲載し、オンラインカタログのようなページを制作します。SNS上でその時目玉になっている商品が確認できるという仕組みですが、もちろんこれだけではユーザーのエンゲージメントを高めるには不十分です。
このキャンペーンが面白いのは、ユーザーが商品ごとに「いいね!」を付けることができるようになっており、その数によって商品が割引されるという点です。例えば1000人が「いいね!」を付ければ10%OFF、3000人の場合は30%OFFとなり、最大で50%まで割引。さらに、対象商品は毎日追加されます。
LIKE CU LIKE SE FAC REDUCERILE MARI! Pe 7 şi 8 Martie, ai până la -50% reducere la produsul din imagine dacă se strânge...
Posted by Billa Romania 2014年3月3日
対象商品を告知するFacebookのポスト
ページに訪れるユーザーの目的は、商品に「いいね!」を付けることだったのは想像に難くありませんが、確かにこの方法であれば、BILLAをよく利用する人ほど長くページに留めておくことができるでしょう。さらに、毎日追加される対象商品をチェックするため、ユーザーは頻繁にページにアクセスすることになります。
実際にこのキャンペーンの効果は非常に高く、エンゲージメント率はなんと2200%も上昇したとか。さらに、ページのシェア数は競合他社と比べて7倍、掲載商品の売上は250%にものびたと言うから驚きです。
一般的にスーパーマーケットのメディアといえばチラシが使われますが、Facebookにそのチラシのような機能を持たせたところが秀逸なこのキャンペーン。商品をディスカウントすることで顧客を呼び込むというベーシックな方法ながら、SNSと組み合わせることで高い新規性と効果を生み出した事例と言えます。
CM中はTwitterにくぎ付け!?「Lovin’ the Super Bowl」キャンペーン
次に紹介するのは、米マクドナルドがスーパーボウル中に展開したキャンペーン事例です。
プロアメリカンフットボールリーグであるNFLの優勝決定戦であるスーパーボウルは、アメリカでは最も人気の高いスポーツイベント。大会当日はスーパーボウルサンデー※とも呼ばれ、事実上アメリカの祝日になっているほど。当然注目度も高く、毎年各社はこの時期に合わせて大々的な広告キャンペーンを実施することで知られています。
※例年、2月第1週日曜日に開催
そんなスーパーボウル当日にマクドナルドが展開したのが「Lovin’the Super Bowl」と呼ばれるキャンペーンです。とは言っても、このキャンペーンは肝心のテレビCMではなく、Twitterを利用したもの。視聴者のほとんどがテレビに釘付けになっている状態で、いかにして高い効果を生み出したのでしょうか。
So you may want to join us during the game—we're taking Lovin' to a whole different level! pic.twitter.com/QhMwk8jWTq
McDonald's (@McDonalds) 2015, 2月 1
その答えが「他社広告の乗っ取り」とでも言うべきアイデアです。
キャンペーンの内容は、スーパーボウル開催中のマクドナルドのツイートをリツイートすると、景品が当たるというシンプルなもの。しかし、この景品とはマクドナルドとはまったく関係のない他社のもので、さらに、その企業のテレビCM中にツイートをするという徹底ぶりなのです。
Lovin’ that glistening @Lexus so much we want to whip our hair. RT to try to win a glistening new Lexus NX https://t.co/o5J9RBjuuj
McDonald's (@McDonalds) 2015, 2月 2
例えばLexusのテレビCM中にマクドナルドがツイートし、リツイートするとLexusの新車が当たるチャンスが生まれるというもの。せっかく注目度の高い大会でCMを流しているのに、視聴者は「この商品当たらないかな」とマクドナルドのツイートを探すことになりました。
思わず「ズルい!」と言ってしまいそうなキャンペーンですが、効果は絶大でした。マクドナルドのアカウントが大会中に集めたメンションの数は、なんと634,310にものぼったのです。ちなみに、同じ大会でTwitter広告を展開しており、数々の広告賞を獲得しているAlwaysの「LikeAGirl」キャンペーンのメンション数が455,695。さらに、こうしたスポーツイベントでは強いとされているビールメーカーのバドワイザーのメンション数が371,900だったことを考えると、その効果の高さがお分かりいただけるのではないでしょうか。
Tonight we are changing the meaning of #LikeAGirl to mean downright amazing. Vote to get the word out. http://t.co/gW0Qj7GMfv
Always (@Always) 2015, 2月 2
Our MVPs are back. Watch our Super Bowl commercial again. #BestBuds #SB49
https://t.co/WFzoRBj2H5
Budweiser (@Budweiser) 2015, 2月 2
この発想はなかった!米ランドローバーのInstagramキャンペーン
最後に紹介するのは米ランドローバーの事例。ランドローバーと言えばオフロードを走る四輪駆動車を専門としており、アウトドア好きなユーザーから絶大な人気を誇るメーカーです。同社はそのイメージをより強化するべく、Instagramを活用したブランディングキャンペーンを展開しました。
画像は同社のInstagramアカウント「@SolitudeInSawtooth」のスクリーンショットです。若いカップルが、米オハイオ州のソウトゥース国立森林公園へ冒険に出かけるという設定になっており、画面をスクロールすることで少しずつストーリーが展開していきます。最初は冒険に必要な荷物をランドローバーに積み込むとことから始まり、公園内に入り、川を渡り温泉に入り、テントを張り、夜になったところでおしまい、という構成です。
Instagramのインターフェイスに合わせてタイルのように敷き詰められた画像は、繋げて見ることでひとつのストーリーになるように配置されており、このビジュアルだけでも十分に成立していると言えるでしょう。しかし、このキャンペーンの見どころはなんといっても画像の中に時折配置されている動画にあります。
こちらは別アカウント「@BrotherhoodOfWonderstone」からのスクリーンショット。米ユタ州のカナブで冒険をする2人の様子が収められており、同じようにタイルのところどころに動画が配置されています。
ある動画ではランドローバーで川を渡る方法が、またある動画ではオフロードを走るうえでのドライビング・テクニックが解説されているなど、冒険に出るうえで知っておきたいサバイバル知識が紹介されています。ランドローバーの走行性能をうたうのではなく、実際に使えるサバイバル知識を織り込むことで、ランドローバーの使用シーンを想起させ世界観を伝えることを狙っています。
この事例も、キャンペーンのアイデア自体は自動車の利用シーンをユーザーに想起させるというごくごくありふれたもの。しかし、それをただのビジュアルとして落とし込むのではなく、Instagramの特長でもあるインターフェイスを活かし、さらに写真の中に隠れアイテムのように動画を紛れ込ませることで、ユーザーの冒険心をくすぐる仕掛けを織り込んでいる点が秀逸なキャンペーンと言えるでしょう。
紹介した以外にも、ランドローバーではInstagramのインターフェイスを活かしたキャンペーンを「Land Rover Adventuregram: go_for_a_drive」などで展開しています。1枚画に留まらないインターフェイス上での「見せ方」の手法を凝らした今後の展開にも目が離せません。
アイデア次第で、驚くような効果が期待できるのもSNSならでは
ごくありふれたなアイデアであっても、SNSと組み合わせることでこれまでにないようなキャンペーンの拡大や展開ができる可能性を秘めています。アイデア次第ではまだまだ高い効果を生み出せると言っても過言ではありません。
海外で話題となったキャンペーンは日本との環境の差から導入しにくいという側面もありますが、キャンペーンの仕組みをよく紐解いていくと国内のキャンペーンにも活かせる要素が見つけられるのではないでしょうか。