ITの技術がオーディオの利便性を上げ、新たな音質を切り開いた
PCオーディオをやる第一の意味はハイレゾを再生できるシステムだったためです。もうひとつは音質のことは別にして、音源を買ってダウンロードするためにはPCが絶対に必要だから、そこで処理できたほうが転送など要らないし、インテグレートだし、さまざまな都合がよかったのです。
PCオーディオの場合、ダウンロードした音源をソフトウェアで処理して、デジタル信号としてUSBから出力する。それをUSB DACでアナログ信号に変える。それ以降のアンプやスピーカーは従来と同じものを使います。これとは別にネットワークプレーヤーという、USB DACとは別のD/Aコンバーターがあります。音源の保存先はUSB DACがPCのHDDだったのに対して、ネットワーク上のNASになります。ここではパソコンを使うのは音源をダウンロードするときだけで、再生時は直接NASからプレーヤーに伝送するのです。
ネットワークオーディオを開発したのがスコットランドのLINNです 2007年ごろの話です。LINNは1960年代から続く、非常に伝統があるオーディオメーカーです。DSというネットワークオーディオシステムを始める前は、SACDにも熱心に取り組んでいました。LINN Recordsという自社のレーベルも持っていて、自社で録音もしています。クラシック、ポップスなど、スコットランドの演奏家を中心に品質の高い録音を残しています。
フィリップさんという名物エンジニアがいて、ミキサーとしても天才的な腕を持っている人です。実はそのミキシングしたファイルを再生するスピーカーも自分で作っているのです。自分で録音して、ミキシングして、その音源を聴きながらスピーカーを調整する。だから、LINNの録音をLINNのシステムで聞くと、とても生々しい臨場感が得られるのです。
私はLINNの「CD12」というプレーヤーを長く使ってきました。価格280万円と高価な製品ですが、いまでもCDプレーヤーでは世界最高峰の音だと思っています。しかしKlimax DSが発表されて、その横に置いて聴いてみると圧倒的にDSのほうが良くて仰天しました。LINNの説明では、CDプレーヤーでは、D/A変換の前にデジタルのデータを高精度に読み込む処理が必要になる。しかし、音源を一度リッピングしてしまえば、CDから高精度にデータを読み込む作業を省くことができ、よりシンプルで高音質な再生ができる。だから音がいいのだそうです。LINN Recordsで配信する音源も当時からいいものがそろっていました。
ハイレゾ黎明期にREFERENCE RECORDINGSという、非常に高品質な音源を作っている会社がありました。HRxというブランドを付けて、アメリカのHDTracksという大手配信サイトで、一定数のタイトルが提供されていましたが、通信環境がプアな人向けにDVD-Rに焼いたものも販売していました。それをNASに移して聞いたとき、ハイレゾの良さっていうのは本当にたまげました。
リムスキー・コルサコフのオペラ『金鶏』をミネソタ管弦楽団が演奏したちょっとマイナーなタイトルなのですが、それをCDで聞くのと、ハイレゾ(192kHz/24bit)で聞くのでは、低音の揺ぎない安定感とか、その上に乗る中域と高域の艶やかさ、ビビッドさというのが全然違う。とにかく生々しいのですよね。やっぱり「ハイレゾはスゴイ」し、「ちゃんとしたオーディオ装置で聞かないといけないよね」ということを体感しました。
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