このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

麻倉怜士のハイレゾ入門講座 第3回

ハイレゾはなぜ音がいいのか? 聴こえない心地よさの秘密

2014年12月28日 15時00分更新

文● 編集部、語り●麻倉怜士

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

ハイレゾの空気感はなぜ生まれるのか

 サンプリング周波数が44.1kHzのCDは、約20kHzの高域までしか収録できません。しかし96kHzのハイレゾでは40kHzを超える高域、192kHzになると90kHzを超える高域が再現できるようになります

 そう言われると「コウモリ相手に音楽やってんの」みたいな話になりますが、実験してみると、CDの44.1kHz/16bitと、96kHz/24bit、そして192kHz/24bitの音には、明らかな差があって、“音楽の心地よさ”みたいなものに違いが出ます。

 CDはよく言えば、表現はさまざまですが「シャキッ」とするというか「カリッ」とするというか「カチッ」というか……、そういう印象です。逆に「硬めである」とか、「しなかやさに欠ける」とか、「薄味」とかそういう印象を持つ人もいるかもしれません。

 これが96kHz、さらに192kHzになると、よりなめらかで粒子がきめ細かくなって、単なる音色そのものの違いだけでなく、“空気感”も出てくるわけです。

デジタル化(サンプリング)したデータは左の図のようにつながっていない(離散化している)ので、これを滑らかな元の波形に戻す必要がある。

※アナログの信号をサンプリングしてデジタル化する際、元の波形を復元するには倍の周波数でサンプリングする必要があるとされている(ナイキスト定理)。ただしこれはシンプルな「正弦波」を復元できるというだけで、「方形波」など多くの高調波を含む波の場合は、より高いサンプリング周波数が必要となる。

アナログ時代、聴こえない音を収録したレコードを作った人がいた

 これをひとつ科学的に研究した成果が“レイズアップ効果”と呼ばれるものです。これを発見したのが芸能山城組の山城祥二先生(大橋力氏、文明科学研究所所長、財団法人国際科学振興財団理事・主席研究員)ですね。超高域の情報は可聴帯域、つまり20kHzより下の音質を持ち上げる現象があると初めて喝破したのが山城先生でした。

 山城先生は脳科学者で、筑波大学の先生をされていて、“ハイパーソニック”という、まさに“ハイレゾ”のさきがけとなった概念を、1980年代の半ばにいち早く提唱された方です。

 先生が主催している芸能山城組は、太鼓あり、踊りありでアジアの芸能をコーラスでやるものです。1970年代にそのレコードがたくさん出て、芸能山城組のレコードは音がいいと評判になりました。実はそのレコードに、先生はある細工をしていました。

 実は50kHzぐらいのところに強調するような音を入れていたんですね。

 そうすることで、先生の表現を借りるなら、“玄妙な音”になるというわけ。おそらく「音のメリハリが利いて、切れ味がよくクリアになっていく」と言いたいのだと思います。そして実際にアナログ時代、芸能山城組の音は不思議に音がいいねっと言われていました。

 さて、時代が変わってCDになりました。芸能山城組のマスターテープをCDに変換したところ、全然音がよくないんです。“玄妙さ”がなくなって、ボヤっとして、音が堅い感じになってしまった。そして山城先生自身も「これは私の作った音じゃないな」と感じた。自分で作ってるから、一番分かるんですね。

 いろいろ考えた結果、マスターテープの音源をそのままデジタル化してCDを作ったため、高域が20kHzで切れていることがいけないのではないかと思い当たりました。アナログ時代に入れていた50kHzの音が全部なくなっている。そこで実験してみたら、50kHzがある音の方が比べ物にならないぐらいいということに気付いた。

 つまり、ライブな感じがするとか、空気感が出てくるとか、より音が立ってくるとか、そういう意味ですね。

前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

週刊アスキー最新号

編集部のお勧め

ASCII倶楽部

ASCII.jp Focus

MITテクノロジーレビュー

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード
ピックアップ

デジタル用語辞典

ASCII.jp RSS2.0 配信中