海外での高い実績が認められている平野氏
一方で、平野氏の次期社長就任は、関係者の間では、いわば規定路線のひとつと見られていた。
最大の理由は、海外で高い実績をあげた手腕が認められていた点だ。
2011年までは、執行役常務エンタープライズビジネス担当として、Serverビジネスなどを統括していた平野氏は、2011年7月に、Microsoft Central and Eastern Europe(CEE)のMulti-Country ゼネラルマネージャーとして、日本マイクロソフトを離れることになった。
米本社で勤務する日本人はいるが、東欧市場の統括というような立場に日本法人から移籍するのは異例だ。
「日本では単一民族の環境の中で仕事をしていたが、CEEではダイバーシティといえる環境で仕事をした。これは大きな経験になった」と平野氏は語る。
平野氏が統括したのは、バルト3国や地中海沿岸国、そして、モンゴルまでを含む25ヵ国。その多くが新興国だ。
だが、平野氏は、そこで大きな成果をあげていた。
赴任した期間は、マイクロソフトの会計年度に当てはめれば、2012年度、2013年度、2014年度の3年間。このうち、2013年度と2014年度は、社内表彰制度であるTOP SUB AWARDを2年連続で受賞。平野氏の手腕は米本社からも高い評価を得たのだ。
実は、日本マイクロソフトも直近の4年間で、先進国6ヵ国における地域子会社間の競争において、3回のTOP SUB AWARDを受賞。日本マイクロソフトの成長力は米本社も認めている。平野氏が高い評価を得たことも含めて、日本マイクロソフトの価値が本社内で高まっていたことは明らかだろう。
つまり平野氏は、東欧での実績を引っ提げて、2014年7月に日本に凱旋帰国。1年間に渡る日本での再経験を経て、世界で最も優秀な成績を収めている日本マイクロソフトの社長に就任するということになる。
「私は日本語だったらもっと言えるのになぁということもあったが、平野は英語も日本語も完璧である。そこは私以上にスムーズに行く」と樋口社長は冗談混じりに語る。
平野氏は、「外見と名前があわないとよく言われるが、私は父が日本人で、母が米国人。北海道で生まれた道産子。日本人なのか、外国人なのかと聞かれるが、ベースは日本人だと言い切っている」と語り、「子供のころから、父と一緒に座禅を組んだり、学ランを着て登校したり、受験勉強もした」といったエピソードも披露する。
4人の子供との会話は、英語が中心のようだ。いずれにしろ、日本と米国の双方の文化と言葉をよく知る人物であることに間違いはない。
コンシューマ分野への展開が重要な年
あえて気になることを挙げれば、コンシューマ分野の経験がないことだろうか。
正確にいえば、CEEのMulti-Country ゼネラルマネージャー時代には、東欧におけるマイクロソフトの全事業を担当していたことから、コンシューマ事業にも責任を持っていたといえる。また、現在担当しているマーケティング&オペレーションズでは、法人事業およびコンシューマ事業のいずれにも責任を持っており、コンシューマの経験は皆無ではない。
WindowsおよびOfficeに関するコンシューマ向けマーケティングは平野氏の配下にあり、マーケティングコミュニケーションに関しても、Xboxを除くコンシューマ製品は平野氏の配下にある。昨今話題のSurfaceのテレビCMも、平野氏の配下で展開しているものだ。
ただ、コンシューマ分野における営業経験がないのは確か。
日本マイクロソフトにとっては、今年はWindows 10の発売とともに、コンシューマ分野への展開が重要な年になる。特に日本においては、Windows Phoneの投入が視野に入るタイミングだ。そして、長年懸念となっているXboxについてもテコ入れが求められる。
平野氏が新社長として、ここでどんな成果を導き出せるのかは未知数だ。
平野次期社長は、「使いたくなる製品を提供し、お客様から愛される会社であり、先手を打っていく会社になることを目指す。臆することなく変革を進めていく」と語る。
7月から始まる新年度にあわせて、平野次期社長は新たな方針を発表することになる。その方針がどんなものになるのか、そして、どんな手腕を発揮することになるのか。日本マイクロソフトの次の進化が楽しみだ。
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