x86とARMを同一のピン配列にする
Skybridgeは誰が使うのか?
さて主だった話はここまでであるが、もう少し内容を掘り下げたい。まず2015年のProject Skybridge。誰もが「そんなことをして誰がうれしいの?」という疑問を持つところだ。これに対してAMDはこんなスライドを用意している。
スライド左半分はIndustrial、つまり産業制御などの用途に向けたシナリオで、右半分はネットワーク用途向けのシナリオである。
まず産業用途向けでは、現在ARMベースの小型SBC(Single Board Computer)や、さらに小さなMCUがさまざまな製造機械やその細かなコンポーネントに入り、その上位はx86ベースのボードが全体の制御、あるいは工場レベルでの管理を行なっているという図式だ。
図式そのものは妥当な見方であり、これがアンビデクストラス・コンピューティングになると、ARMとx86の両方を利用できるため、上から下まで製品を提供できるというものである。ただ、これをどう思うかというと「いやそれはないだろ」と言わざるを得ない。
Project Skybridgeで、仮にCortex-A57コア以外にCortex-A53や32bitのCortex-A5/A7、あるいはMCU向けのCortex-Mシリーズまで提供するという話でもあれば、これは現実的かもしれないが、Cortex-A57は現在の産業用途向けのARMプロセッサーの代替にはあまりに高機能かつ贅沢すぎる。
そもそも、Project SkybridgeそのものがSeattleの後継に近いところにあり、現在のx86で実装されている高レベルの制御や管理をARMで代替するという用途には使えても、その下の置き換えはまず考えられない。
もっと無理があるのがネットーワーク用途である。まずTodayの部分が、筆者の認識とかなり違ったところにある。もちろんネットワークという用語が指す範囲は広いから、あるいはこうした位置付けになっている市場もあるのかもしれないが、あまり一般的ではないだろう。
スライドでは、ハイエンドのコントロールプレーンがx86、ミッドレンジがPowerPCやMIPSで、ローエンドがARMということになっているが、そもそも「ハイエンドのコントロールプレーンってなに?」という話である。
これがエンタープライズのサーバーを意味するならばその通りであるが、例えばIX(Internet Exchange)で使われているバックボーンルーターや、WiMAXやLTEなどのマクロセル基地局といった意味でのハイエンドであれば、PowerPCかMIPS、もしくはASICなのが普通で、ここにx86はほとんど使われていない。
大体このクラスになると、扱うべき情報量が数百Gbpsになるので、そもそも汎用CPUで処理するとまず間に合わない。なので、こうした用途では専用のパケットプロセッサーやさまざまなアクセラレーターが実際のパケットを処理しており、これをMIPSやPowerPCで制御するという構図が一般的である。
ではx86ではどうかというと、もう少し高レベルのアプリケーション(SANスイッチや、ある種のファイアウォール)など、ソフトウェアの比重が高いものに偏っている。現在の流行を見ていると、そのPowerPCやMIPSを使っていたベンダーが相次いでARMコアに移行を始めており、次世代製品はPowerPCやMIPSとARMが入り混じる構図になりつつある。
これに絡んでくるのがSDN(Software Defined Network)という新しいトレンドで、具体的にはOpenFlowという新しいネットワーク向けの規格にどれだけ準拠しているか、ということになる。前述のPowerPC/MIPSを使っていたベンダーは、このOpenFlowへの対応をARMへの移行と合わせて進めている。
したがって、次世代はまだアーキテクチャーが混在しているが、次々世代はARM一色になりかねない状況である。逆に言えば、x86の対応はやや後手に回っていると言わざるを得ない。
インテルは、傘下にOSベンダーであるWind Riverを抱え、ここが開発したOpenFlow対応のネットワークソリューションを提供できるからともかく、そうした後ろ盾のないAMDにとってx86でネットワークのマーケットに参入できるという考え方はかなり無理がある。つまり、このシナリオは見栄えはともかく実情を反映しているとは言いがたい。
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