前回に引き続き、今回もARMの新64bitコア「Cortex-A57/A53」について解説したい。だが本題に入る前に、少し最新情報を追加しておきたい。
まずARMは11月20日に、「ARMv8 Foundation Model」と、これのマニュアルを公開した。Foundation Modelとは、非常に簡単なARMv8プロセッサーのエミュレーターである。現在のエミュレーターのバージョンはまだv0.8だが、最大4コアのプロセッサーと最大8GBのRAM、UART(シリアル通信ポート)にネットワーク、Secure RAMなどのエミュレーションが可能であり、これで早速ARMv8のプログラム開発が始められるというわけだ。
これにより、システム開発者はこのエミュレーターを使って、ARMv8に対応したアプリケーションの基本部分の開発を始められる。もちろんエミュレーターでしかないから、この上でパフォーマンスチューニングをやるのは論外だし、あくまでも基本的な周辺回路しか搭載されていないから、複雑なデバイスに対応するアプリケーションの作り込みなども無理だ。だが基本的な部分、例えばOSカーネルや基本的なライブラリなどの移植には、とりあえず使えるレベルである。
ARMの場合、SoCがどんな構成になるのかはプロセッサーメーカーごとに異なるから、ARM提供の開発キットが全部を網羅するのは不可能である。また、ARMからCortex-A57/53コアのライセンスを受けたメーカーは、それにどんな周辺回路やバスを組み合わせて自社のSoCを作るかを決める際に、性能評価のためにもっと本格的なシミュレーターを動かす必要がある。完全に構成が決まると、本核的なシミュレーターがそのままソフトウェア開発のプラットフォームとして利用できるので、ARMのエミュレーターはそれまでの間だけ使えればいいわけだ。
公開されたCortex-A57/A53の概要
では本題に入ろう。10月末の開発者向けイベント「ARM TechCon 2012」にて、ARMは正式にCortex-A57/A53という2種類のCPUコアを発表した。この2つのコアの特徴をまとめると以下のようになる。
プロセッサーアーキテクチャー
どちらもARMv8準拠で、ARMv7互換の32bitアドレス命令「AArch32」と新しい64bitアドレス命令「AArch64」に準拠。セキュリティー機能として「TrustZone」、SIMD拡張として「NEON」に対応するほか、「VPFv4」と呼ばれる浮動小数点演算命令と、ハードウェア仮想化機能を搭載する。
これにともない、仮想アドレスは64bitに拡張されたほか、新たに汎用レジスタが31個に増強された(ARM v7までは15個)。当然レジスタサイズも64bit幅に拡張されている。またAArch64ではさらに、以下のような項目が追加されている。
- SIMD演算の倍精度浮動小数点対応
- 相対アドレス指定幅の拡張。「Tagged Pointer」と呼ばれる方式への対応などの、アドレス指定方式の拡張
- 64KBのページサイズに対応
- キャッシュ管理方式の拡張
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