スタイリッシュな見た目に質実剛健なスペック
今回見学したKVHのSGDC1は島の西側にあるビジネスパーク内に位置している。市街地から延びる電車の駅から12~15分程度で歩ける場所にあり、ロケーション的に至便なのが売り。イメージ的には東京から羽田空港くらいだろうか。KVHが得意とする金融系の顧客に近いのも特徴といえるだろう。
SGDC1は2010年に日本のゼネコンの設計施工によるデータセンター専用ビルに設置されている。スタイリッシュな見た目を持つビルだが、スペックは本格的。建物自体がFISC(金融機関が遵守すべきガイドライン)のシンガポール版にあたる「TRM」で義務付けされているリスク評価(TVRA)実施済みとなっており、侵入者を防ぐフェンスが敷地の周りに巡らされているほか、監視カメラも各所に配置されており、実に手堅い。内部からのOKが出なければ、正面の入口すら入れず、ようやく入った入口にもX線による手荷物検査や金属探知機による検査が実施される。聞けば、サーバールームに至るまで生体認証を含む7レベルに渡るセキュリティがしかれているとのこと。相当に厳重なセキュリティがしかれていることを理解いただきたい。
データセンターのスペックを見ると、2系統の受電、冗長化されたUPSや発電機、24時間365日体制でのセキュリティスタッフ常駐など、限りなくティア4に近いレベルを実現。自然災害、停電、テロ、火事などあらゆるリスクに対して、高い耐障害性や強度を持っており、ユーザーとしても安心できる。写真を見ながら、特筆すべきポイントをチェックしていこう。
まず電力だが、ブルネイとジュロンの2系統で22kVを受電しており、2N構成のUPSとPDU、RDUを介して、各ラックに供給される。これと は別に、ビルが共用設備として、N+2構成のロータリー型UPSで、空調関連設備に対する電力供給を行なっている。電力系統の冗長化は徹底しており、これ が高い信頼性につながっているようだ。
もちろん、7万リットルの燃料備蓄も行なっており、全負荷で最低でも48時間の連続運用が可能。通常、同一ビル内に収容される発電機は、わざわざ別棟に用意されている。巨大な発電機がフロアごとにいくつも設置されており、実に壮観だ。
空調は水冷式を採用しており、冷水をチラーで冷却し、ループ構成の配管により、熱源に対して冷気を供給している。実際、サーバールームやMDF室も含め、かなりの数の空調機が見受けられた。通年で最高気温が25度を超えるため、外気冷却は行なわれていない。ここらへんは熱帯ならではの冷却事情といえる。
遠隔地から利用するにあたってもっとも気になるネットワークに関しては、ビルの北側・南側から2系統で引き込んでおり、シンガポール内に2箇所あるKVHのグローバルPOP、そして東京までをつなぐASE(Asia Submarine-cable Express)を介して、KVHの誇る超低遅延国際ネットワークに接続可能。もちろん、提携ISPによるインターネット接続のほか、他の通信事業者と接続できる“キャリアフリー”という特徴も持っている。同地でメジャーなシングテル(Singtel)やスターハブ(Starhub)、オープンネット(Opennet)、M1、ブルーテル(BlueTel)、ビュークエスト(ViewQwest)など多くの通信事業者と接続できる。
その他、ステージングルームやオペレーションルーム、消火設備など共用設備も、写真でチェックしていこう。
東南アジアの中には、架空された光ファイバーを電信柱経由で引き込んでいるとか、通信局の鍵を隣に住んでいるおばちゃんが持っているとか、日本の常識とかけ離れたインフラ事情の国もあるが、こうした心配はシンガポールでは一切不要だ。欧米や日本と同じレベルのインフラや運用管理がキープされていると感じられる。
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