近々日本戦車の技術ツリーが実装されるWorld of Tanksだが、世のミリタリーファンの目にWoTはどう映るのだろうか? さっそく某IT企業勤務にして日本軍マニアのゴースト結城氏にWorld of Tanksを体験してもらいつつ、ミリタリー四方山話をざっくばらんに語ってもらった。
ミリタリー趣味がブレイク中!? いったい何が起きたのか
―― 「最近、ミリタリーが若干盛り上がり始めているように感じるのですが」
ゴースト結城 「たとえば鉄道趣味って、昔は“それは触れてはいけない、あの人の聖域”のような時期もあったと思うんです。今でこそ『へえ、あなた鉄道ファンですか。何鉄なの?』なんて気軽に話題として振れますけどね。
その流れがいよいよミリタリーにも訪れたのかなと。堂々と『僕ミリオタです』と宣言しても、『えっ、何ミリですか?』とか軽く突っ込んでもらえる時代が来ようとしているんじゃないか(笑)」
―― 元ネタが第二次世界大戦、あるいは戦国や幕末だったりするアニメ・ゲームがここ2~3年の間、途切れず何かしら話題になり続けた上で、World of Tanksもコラボしている『ガールズ&パンツァー』のヒット、そして『艦隊これくしょん~艦これ~』のブレイクでミリタリー系が一気に爆発した感があります。
今、深夜にテレビを付けるとガールズ&パンツァーの再放送をしていて、別のチャンネルでは第二次世界大戦時の軍艦を模した超兵器が大暴れする『蒼き鋼のアルペジオ』が放送中。そこでふと自分のPCモニターを見るとWorld of Tanksが動いていて、ソファに転がっているタブレットには艦これが表示されている。よく考えればすごい時代です。
ゴースト結城 「昔は戦史に忠実でなければいけない、事実の再現が至上、みたいな風潮もあったと思うんですけど、割とそこも緩やかになってきましたよね。World of Tanksでも、国は戦車の技術ツリーを選ぶための方便であって、ゲーム中はドイツ戦車とアメリカ戦車が一緒に戦ってますし。
かれこれ数十年、こういった“業務”に携わっているとですね(笑)、どうしても歴史に忠実にならざるを得ないというか、どこまでディテールを知っているか勝負みたいな頭になりがちなんです。
ちょろっと昔の写真に写っているシルエットだけを見て、『これはP-51じゃないか』『いやいや違うよ』とか。そういうところで勝った負けたを言い合っているとですね、まあ普通、人は近づいてきません。……かく言う僕も中学生の頃から渋谷の大盛堂書店とかに入り浸ってましたけどね」
―― おお、かの有名な舩坂弘氏が開業した書店ですね。
ゴースト結城 「当時、大盛堂書店はミリタリーコーナーが充実していまして。月刊『丸』を毎月立ち読みしたり」
―― 立ち読み!?
ゴースト結城 「毎月は買えなかった(笑)。その足で道玄坂のあたりにあったモデルガン屋さんに行く。そんな毎日を送っていると当然、同好の士ができるのですが、中学のときにその友達が転校するというので、お別れの品として四式中戦車の資料を集めたムックを買って、『山本君、四式中戦車好きだからこれあげるよ』と言ったら、『ありがとう。でも持ってるよ』って……。事程左様にマニアは“喜ばせがい”がないんです(笑)」
―― Twitterのミリタリークラスタを眺めていると、この降ってわいた局地的ブームに対して古参の方々が妙に暖かいんですよね。“ガルパンと艦これのおかげでミリタリーに日が当たっているけど、一見さんを蹴り飛ばうのは止そう。せっかく新しい人たちが数十万単位で入ろうとしているのだから……”的な配慮が見られるというか。
ゴースト結城 「そうですね。じつはこれまでのミリタリーファンって、一昔前のAppleユーザーになぞらえることができると思うんですよ。今でこそ、iPhoneやMBAが大人気で毎回行列ができたって話題になりますけど、一昔前は『Macを使っているんです』って言うと、『あっ、印刷関係のお仕事ですか』と決め打ちされるほどの少数派でした。
Appleユーザーになった瞬間に、周りから『面倒なことになった』的な扱いをされたわけです。文字化けはするし、添付ファイルに気持ちの悪いファイルがもう一個付いてくるし、どうなってるんだと。
一方、Windowsユーザーに『俺、Mac使おうと思うんだけどさ、Macって拡張子がないんだろ』とか言われるとですね、『拡張子がないんじゃなくてな、必要ないんだ!』とか言い返して、君たちはいかにMacの価値がわかってないかを蕩々と説いた結果、『やっぱWindowsでいいや……』みたいな人をたくさん生んでしまったという。
その過ちが、ミリタリー界隈と重なる気がして。だから、『この時代のドイツ軍の将校の帽子はこれじゃない』とかもう止しなさいと。なにせ、隣を走っているのは違う国の戦車なんだから、細かいことはいいじゃないか! World of Tanksは自分が楽しむためのツールとして、おおいに結構だと思いますね」
―― ライトユーザーを取り込む機会ってそうそうありませんからね。
ゴースト結城 「ミリタリーファンに総じて言えることは、激しい負けず嫌い。みんな今まで知識で競い合ってきたわけですよ。こいつのカタログスペックは何馬力だけれど、当時はオクタン価の低いガソリンしか手に入らなかったので実際はこのぐらいだっただろうとか」
―― 負けた後に米軍がプラグを替えて動かしたら速度が云々みたいな。
ゴースト結城 「ところが、インターネットの発達は我々マニアにいよいよとどめを刺したところがありまして。蘊蓄話というのは、一回振ってから語るわけです。たとえば『震電って知ってる?』って話を振ると、普通は『えー知りません。なんです?』っていうかわいいリアクションがあって、『じつは幻の試作機でね』って話をするんですけど。
今は、“しんでん”で検索すると、『Wikipediaに載ってました。プロペラが後ろに付いている飛行機ですね』って返されて、『そうです。その通りです。以上です』みたいな(笑)。
そういったとどめを刺されたマニアたちを救うという意味でも、World of Tanksは適しているんじゃないかと。負けず嫌いというのは人間性に関わるところなので、そこは変わってないんですよ。昨日今日ミリタリーを囓ったようなやつらに、俺様が戦車戦において負けるわけには! みたいなところがありますので。まあ、そうはいってもゲームは初心者なのでボコられるわけですが」
―― そこはこれまで培ってきた知識で対抗ですよ。World of Tanksは実車にできる限り忠実な設定になっていますから、『あの戦車は前面下部にトランスミッションが入っているから、そこを撃ち抜けば機動力は落ちるはずだ!』とか言って狙い撃つわけです。

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