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最新クラウドサービス選びの勘所 第3回

AWSの存在感が増す中、元祖国産クラウドはどう戦うのか?

IIJ GIOの強みはエンタープライズでの実績とSI力

2013年09月02日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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ニフティとほぼ同時期にサービスを開始し、国内のクラウド市場を牽引してきたIIJ(インターネットイニシアティブ)の「IIJ GIO」。導入はすでに1000社を突破し、米国や中国、ヨーロッパなどグローバル展開もスタートしている。サービス開始から4年目を迎え、アクセルを踏むIIJ GIOの現状を聞いた。

4年目を迎え、ますます拡がるIIJ GIOのサービス

 2009年12月から本格開始されたIIJ GIOは、IIJのクラウドサービスブランド。自社開発・構築によって実現した高いコストパフォーマンスや豊富な実績、パブリックでもプライベートでも利用できる柔軟性などさまざまなメリットを持っている。IIJのマーケティング本部に新設されたGIOビジネス推進部 副部長の神谷修氏は、「Webやメールホスティング、2000年当時から展開しているリソースオンデマンドサービスの『IBPS』で培った、大量のリソースを管理する技術や実績があった上で、新しい仮想化の技術を組み合わせてIIJ GIOのサービスを立ち上げています。決して、“クラウドという波”に乗るために作ったわけではないんです」と語る。

IIJ マーケティング本部 GIOビジネス推進部 副部長 神谷修氏

 現在のIIJ GIOはコンピューターインフラを統合的に提供するIaaSを中心に、SaaS/PaaS、仮想デスクトップサービス、リモートアクセスなどの応用サービス、運用監視サービスなどから構成されている。

 主力サービスは、オンライン契約で手軽に使える「IIJ GIOホスティングパッケージサービス」と、サーバーやストレージ、ネットワーク、データベース、運用まで幅広なリソースを組み合わせられる「IIJ GIOコンポーネントサービス」の2つ。実際、IIJ GIOの売り上げも、この2つがほとんどを占めるという。これらのIaaSを物理サーバーやストレージとつないだり、既存のセキュリティやネットワーク、運用サービスと連携して利用するのがIIJ GIOのもっとも多いパターンだという。「従来から、インターネット経由だけではなくマルチキャリア、多様なプライベートネットワーク形態でIIJ GIOへの接続が可能です。AWS(Amazon Web Services)のダイレクトコネクトのような接続サービスはリリース当初から利用可能でした」(神谷氏)。

 昨夏からはIIJ GIO上にユーザーのVMware環境を構築できる「仮想化プラットフォーム VWシリーズ」を提供している。“持たないプライベートクラウド”を実現すべく、VMware vSphereをインストールしたサーバーを提供し、仮想マシンの作成やOS、ソフトウェアのインストールも自由に行なえる。また、注目すべき特徴の1つにISVのソフトウェアやユーザーの仮想マシンのイメージを登録しておく「GIOライブラリ」が挙げられる。神谷氏は「ユーザーはvCenter経由でISVのソフトウェアやアプライアンスを簡単に追加できます。また、お客様自身に仮想マシンのイメージを登録してもらい、グループ会社で使い回すといったことも可能です」と利用方法をこう説明する。

 グローバル展開もホットトピックだ。昨年の米国でのサービス開始を皮切りに、2013年の年明けには中国、8月にはヨーロッパで提供を開始した。今年度中に東南アジアでのサービス開始も予定しているという。

 さらに直近ではHadoopクラスターの提供や、構築ツールや作業支援まで提供する「ビッグデータラボ」もスタート。プライベートクラウドにおけるSAP基盤の提供も開始し、トレンドをいち早くをキャッチアップしている。

「エンタープライズが8割」の背景

 サービス開始から4年目を迎え、IIJ GIOの導入企業はすでに1000社、1800システム(2013年3月時点)を超え、売り上げも今年度は100億円超を臨むところに来ている。神谷氏は、「パブリッククラウドだとB2Cのエンタテインメント系のお客様が多いというイメージがありますが、GIOのお客様は約8割がいわゆる一般企業。また、インターネット接続ではなく、プライベート接続で企業リソースの延長としてGIOにつないでいるお客様が多いです」と語る。

 ソーシャルゲームやSNS事業者よりも、エンタープライズの割合が高いというのは、IIJ GIOの特徴と言えるだろう。もともとIIJがエンタープライズを顧客基盤に置いており、IIJ GIOも当初は直販が中心だったため、こうした傾向になったようだ。とはいえ、エンタテインメント系の顧客も社数は少ないものの、リソースの利用率やそれに伴う売り上げ比率が高い傾向にあるという。

 「クラウドの選定理由も以前はやはり価格重視でしたが、現在は信頼性と品質になっています」と神谷氏は指摘する。この3年できちんと理解されてきたことで、こうしたシフトが起こっているようだ。IIJ サービス戦略部 GIO企画課長 川本信博氏は「当初はクラウドという存在自体がユーザーにおいてもイメージできませんでした。クラウドへの期待も大きすぎたんです。ようやく正しい理解がされてきたかなと思います」と語る。

IIJ サービス戦略部 GIO企画課長 川本信博氏

 その点、IIJの最新のカスタマーサーベイでは稼働率や信頼性において9割近くが満足しているという。「クラウドに移行して、セキュリティの不安が解消した、あるいは運用が改善されたと答えているお客様がほとんど。クラウドだからセキュリティが危ないというイメージは払拭されてきました」(神谷氏)という感触だ。

存在感を増すAWSとの差別化ポイントは?

 競合との差別化ポイントとしては、システム構築まで対応できる点だという。IIJ マーケティング本部 GIOビジネス推進部 営業課 シニアGIOスペシャリストの堀江賢一氏は、「AWSと違って、IIJはSIerの顔を持っています。だから、お客様のふわっとしたニーズを受け止め、企画や構築、運用まで含め、ワンストップで幅広く対応することが可能です。そのあたりが特にエンタープライズのお客様に受けていると思います」と語る。

IIJ マーケティング本部 GIOビジネス推進部 営業課 シニアGIOスペシャリスト堀江賢一氏

 クラウドの拡販で特に重要になるパートナー施策も進めている。パートナービジネスはサービスプロバイダーの同社にとってチャレンジの分野だが、IIJ GIOでは当初からパートナー制度を敷いており、すでに420社が登録している。神谷氏は「IIJも幅広いラインナップでお客様のニーズに応えようとはしていますが、正直1社ですべてのシステムを載せるのは現実的ではありません。インターネットやセキュリティなど弊社で強いところは自前で進めていきますが、業界や特定のビジネスに特化したところはパートナーにおねがいします」とパートナー戦略について説明する。IIJ GIOとパートナーの商材をシームレスに見せるのも重要。川本氏は、「GIOライブラリでソフトウェアを課金できるモデルを検討していく。クラウドとソフトウェアを含めた形も用意します」と、今後の展開を語る。

 クラウドへの移行が本格化するとともに、日本上陸以降はAWSの台頭が著しい。SAPのような基幹系システムの事例も増え、AWSを中心とするエコシステムも回り始めている。これに対してIIJも危機感を感じているが、いたずらに価格では勝負しないという。川本氏は、「AWSの存在感が増す中、われわれも数あるクラウドサービスの中でIIJ固有の強みを生かした存在にならなければならない。そのためには、サーバー周りは当たり前。インターネットやセキュリティ、モバイルやSDNまでトータルコーディネートできる新しいクラウドサービスを提示していきたいです」と語る。

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