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前田知洋の“タネも仕掛けもあるデザインハック” 第4回

マジシャンは本当に目にもとまらぬハヤワザができるか?

2012年11月09日 09時00分更新

文● 前田知洋

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スムーズでない動き

 こういった動きはマジックだけではなくて、日常生活でも同じだ。たとえば道路で、急発進や急停車をする車があれば、周囲の人たちは「何事か?」と違和感を感じて注目する。コンピュータを使っているときも、カーソルやポインターがスムーズに動かないと「ちぇっ!また調子が悪いかなぁ」とイライラしたり、マウスの受光部にフッと息を吹きかけたりする。マウスが光学式でなかった頃はボールを掃除することもあった(笑)。いずれにしても、滑らかでない動きは集中力にストップをかける。

緩急がない

 緩急(かんきゅう)とは、速かったり遅かったりが上手く組み合わさっていること。車を運転していても、ずっと同じ速度の一本道だと飽きたり眠くなってしまうのと似ている。上り坂や下り坂があったり、カーブやトンネルがあると、運転の集中力が切れにくいのと同じだ。

呼吸が上手く合わない

 たとえば、コンピュータで急ぎの作業をしようとするときにウィルスチェック・アプリケーションなどが動き出して急に処理速度が下がってしまう。そんなときもユーザーはイライラを感じる。逆に、メールや企画書の文章を考え、ちょっと手を止めている間に、そんなバックグラウンド処理をしてくれれば、ユーザーはストレスを感じない。

 マジシャンと観客の関係もそれと同じで、マジシャンが何かを説明しているときは観客が話に集中できるよう動きをとめることが肝心になる。キャッチボールと同じように双方のコミュニケーションが適度に行き来することで観客は自然な呼吸をしているかのような心地よさを感じる。デートにおいて、一方的に自分のことばかり話す相手を想像してみると理解しやすいかもしれない。

力強く、エレガントにみえるという副作用も…

 マジックにかかわらず、人前でスピーチをしたり、仕事でプレゼンをしたりするときに上のスピードについての3つのポイントを心がけると観客はより内容に集中できる。スムーズで、緩急があり、相手と呼吸を合わせることを上手におこなえば、内容が伝わりやすいだけでなく、力強く、エレガントに見えるという副作用も生まれる。蛇足だけれど、人前でスピーチやプレゼンなどするときは交感神経が優位になりやすいので、自分が最適だと思うスピードより1割ほど遅くすることもポイント。

現代はプレゼンやスピーチおこなう機会が増えている(NHK/トップランナー)

 現代は、エンターティナーでなくても、TEDを始め様々なシーンで、ステージの上でのプレゼンをおこなう機会が増えている。うまくスピーチやプレゼンをおこない、会場から拍手喝采をもらう感覚は何ものに代えがたい。すべての人がマジシャンのように秘密の動きを隠す必要はないけれど、動きのスピードを少しでも考えることで、スピーチの成功の確率はあがる。人前で話すことが苦手な人は、ぜひお試しを!

 先月のフロリダのコンベンションで知り合ったカナダのマジシャン、シェーン・コバルトさんの短いマジックの動画。ゆっくりでもスムーズな動きが魔法のように見える。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす魔法のことば』(日本実業社出版)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。現在、(株)ビジスパからメルマガ「Magical Branding-セルフブランド活用法-」を配信中。

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