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第2回メディア横断企画「グローバルICT討論会」の楽しみ方 第4回

グローバルICT討論会(後編)レポートその1

震災の影響は?グローバルICTのガバナンスを論じる

2011年11月08日 09時50分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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10月28日、NTT Communication Forum 2011において、IT関連メディア4社が参加する「第2回メディア横断企画 グローバルICT討論会」の後半が開催された。前半のクローズな討論会ではおもに課題出しが行なわれたが、今回はITRの調査結果をもとに、具体的な指針について論議された。

討論会の模様

【第2回メディア横断企画】グローバルICT討論会

ITアナリストとメディア首脳が直言。
新グローバル化時代に求められる企業のICT戦略とは?

パネリスト
浅井 英二氏 アイティメディア ITインダストリー事業部 エグゼクティブプロデューサー
別井 貴志氏 朝日インタラクティブ CNET Japan編集長
大谷 イビサ アスキー・メディアワークス TECH.ASCII.jp 編集長
星野 友彦氏 日経BP コンピュータ・ネットワーク局 ネット事業プロデューサー 兼 日経コンピュータ編集プロデューサー
モデレータ
舘野 真人氏 アイ・ティ・アール シニア・アナリスト

(以下、敬称略)


火山の上に土地がのっている日本でのBCP

 前半の討論会から約1ヶ月が経ち、NTT Communications Forum 2011の講演会場で展開された後半の討論会。90分という時間の中、冒頭は震災以降のIT戦略、そして特にアジア圏への進出を中心に議論が進んだ。

アイ・ティ・アール シニア・アナリスト舘野 真人氏 

ITR 舘野:まずはグローバルICTとの大きく関わりのある3・11の震災の影響について考えてみたいと思います。日経BPの星野さんは、震災以降で特に課題になった点があれば教えてください。

日経BP 星野:はい。震災直後の2011年3月に「日経コンピュータ」で緊急アンケートを行ないました。CIOやシステム部門の方、約300名に聞いたのですが、やはりBCPやDRへの投資の優先度が如実に上がっていました。興味深いのは、2000年問題や中越地震などを経て、各社ともきちんとBCPを練っていたにもかかわらず、震災の時に機能しなかったという点です。BCPが想定通りに動いたという会社は、たった1%だけでした。残りはまさに想定外で、サプライチェーンも含め、厚みがなかったようです。これが大きな課題になっていると思います。

ITmedia 浅井:想定外という話なのですが、これが本当に想定外なのかという疑問はあります。セコムさんに聞いた話なのですが、世界のうち日本が占める国土は0.25%に過ぎないのに、活火山は7.2%もあり、マグニチュード6以上の地震は全体の20.5%に上っているとのこと。セコムさん曰く、日本は火山の上に土地がのっているようなものだそうです。ちょっと手厳しいかもしれませんが、これで想定外というのはやはり責任逃れと言わざるを得ない。BCPが有効に機能しなかったという話もあったが、計画をしまい込んでおくのではなく、きちんと管理していくことが重要。あとは止めないではなく、限られたリソースで、いかに早く復旧するかという考え方が現実的だと思います。

ASCII.jp 大谷:米国では9・11の同時多発テロのときにBCPやDRが機能したという例がありましたが、日本ではやはり対岸の火事だったと思います。というのも、とにかくBCPを真剣にやろうとするとお金がかかります。「東京のバックアップセンターを北海道に作ります。回線もデータセンターも必要ですが、普段はバックアップセンターは動いていません」という話だと、経営陣は普段動いていないところにお金は出せるか!と納得してくれません。

ITmedia 浅井:情報システム部門で重要なのは、経営陣に判断材料を示すことだと思います。経営陣から、データセンターを西に移せだの、海外へ移転だと言われたときに、その判断が正しいかの材料を提供するのがプロとして必要でしょう。

別井 貴志氏 朝日インタラクティブ CNET Japan編集長

CNET 別井:中越地震から7周年を振り返るプロフェッショナル向けのイベントが新潟であり、阪神淡路大震災や3・11の震災の関係者も集まりました。そこの討論で出たのは、やはり教訓が生かされていないという反省でした。なにより、いくら施策が練られていても、訓練がきちんと行なわれていなかったということです。

ITR舘野なるほど。震災を機に海外に出ようという傾向もあると思いますので、先頃(2011年10月)、グローバル進出を実施・検討している500社を対象に実施したグローバルICT戦略の動向調査を見てみます。震災とグローバル化の関係を調べた調査では、震災はグローバル化への加速要因だけではなく、減速要因になっていることもわかります。この点、大谷さんはご意見ありますか?

アスキー・メディアワークス TECH.ASCII.jp 編集長 大谷 イビサ

ASCII.jp 大谷:前回のクローズな討論会では、昨今の円高や市場開拓を考えれば、グローバル化は必須という流れだったと思いますが、先日のタイの洪水では日本企業の生産設備に大きな影響が出ました。こうした事実を見ると、アジアに打って出るという話も、短期的な視野では決められないなと思います。

日経BP 星野:グローバル化の流れは3・11を契機にしたものではありませんが、日本が抱えるいろいろな課題や脆弱性を浮き彫りにしました。確か日本の人口は2004年をピークに減少し始め、2050年には1億を割り、2100年には明治初期と同じ4000万の規模になってしまいます。市場は1/3になってしまうのですよ。日本発の企業や技術が生き残れるかを考えれば、グローバル化というより、もはやドメスティックではいられないというのが、正しい認識ではないでしょうか。

海外からのガバナンスが当たり前に?その課題は?

ITR舘野:先ほどの調査を見ると、海外進出の目的として、やはり現地市場の獲得が6割を越えています。また、事業の進出先とIT投資の重点箇所がかなりシンクロしており、中国、ASEAN、インドなどアジア地域を重視する企業が多いという傾向もわかりました。確かに2010年度の地域別売り上げを見ても、やはりアジア圏で売り上げを伸ばしている企業が圧倒的に増えていますし、極端な話「拠点を増やしたら、儲かる」といった状態です。

さらにユニークなのは、こうしたグローバル化の流れに沿って、国内の企業でもICTのガバナンスを日本国内で実施しようという割合が5割から3割台に減っているという点です。国外の拠点から統括したり、国内・国外の2極体制でやるというところも多いです。また、現在は45%の企業が日本発を重視していますが、「今後は海外で標準とされる環境を優先する」という回答も増えており、ICTの分野でもグローバル化や標準化が進展しています。

アイティメディア ITインダストリー事業部 エグゼクティブプロデューサー 浅井 英二氏

ITmedia 浅井:この調査はすごいです。IT部門の現状と今後がよくわかります。結局、IT部門でもガバナンスが重要ということです。外国人のトップが辞任してしまった会社のようなガバナンスもあれば、海外に投資してどんどん儲けなさいというガバナンスもあります。ITも同じで、ビジネスのゴール達成にどれだけ寄与しているかを、きちんと見定める必要があります。

日経BP 星野:一部のIT部門では抵抗感も強いと思うのですが、グローバル化は受け入れざるをえない状態です。たとえば、国産のパッケージは細かいところで気が利いていてよくできており、日本人であれば暗黙知というか、普通に使えてしまいます。海外の人はあえてトレーニングさせて使わせていたという感じでした。一方で、海外のパッケージはがさつなので、ベンダーに改良を要求したり、日本仕様にカスタマイズしてきました。しかし、今後はこの要求が通用しなくなるかもしれません。これは経営の判断ですが、日本人が海外製品にあわせる必要が出てきます。

CNET 別井:ただ、トップダウンでグローバル化を進めている企業であればともかく、海外で使われているもので標準化したら、これだけコストが削減できたとか、実際の事例が増えないと、日本での導入はなかなか難しいと思います。あとは「ガラパゴス」という表現が自虐的に捉えられることもありますが、海外のモノだからいいという判断基準はおかしいですよね。

日経BP コンピュータ・ネットワーク局 ネット事業プロデューサー 兼 日経コンピュータ編集プロデューサー 星野 友彦氏

日経BP 星野:グローバル標準で全部まとめる必要はないと思います。肝心なのは、この国や地域が何を使っているのか把握すること。その上で、ゴールを描いて、シナリオを作ることが鍵です。たとえば、セブン・イレブンジャパンは、世界で先進的な受発注システムを使ってますが、米国では物流や人材トレーニングが追いつかないという理由であえて古いシステムを採用しています。ですけど、何年かかけて、物流と人材トレーニングを整備して、最終的には無駄なく、効率的なシステムが実現できるという長期的な絵を描いているんです。グローバルという観点では、こういう長期的な視野を持ったプランも必要になってきます。

 討論会後半のレポートでは、グローバルとクラウドの関係、ビッグデータやモバイルなど新しいソリューションの可能性、そしてICTパートナーの選定などの話題に移る。

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