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第2回メディア横断企画「グローバルICT討論会」の楽しみ方 第5回

グローバルICT討論会(後編)レポートその2

利益を生む「ICT」の価値を再認識し、グローバル化に備えよ

2011年11月14日 10時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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10月28日、NTT Communication Forum 2011において、IT関連メディア4社が参加する「第2回メディア横断企画 グローバルICT討論会」の後半が開催された。ここでは討論会の後半30分で大きなテーマとなったクラウドとICTパートナー選びについて論議を見ていく。

討論会の模様

【第2回メディア横断企画】グローバルICT討論会

ITアナリストとメディア首脳が直言。
新グローバル化時代に求められる企業のICT戦略とは?

パネリスト
浅井 英二氏 アイティメディア ITインダストリー事業部 エグゼクティブプロデューサー
別井 貴志氏 朝日インタラクティブ CNET Japan編集長
大谷 イビサ アスキー・メディアワークス TECH.ASCII.jp 編集長
星野 友彦氏 日経BP コンピュータ・ネットワーク局 ネット事業プロデューサー 兼 日経コンピュータ編集プロデューサー
モデレータ
舘野 真人氏 アイ・ティ・アール シニア・アナリスト

(以下、敬称略)


グローバルICTと切り離せなくなったクラウド

 前回の討論会から約1ヶ月が経ち、NTT Communications Forum 2011の講演会場で展開された後半の討論会。90分の討論会も佳境にさしかかり、クラウドとグローバルICTとの関係、ビッグデータやスマートデバイスなどの最新ITトピック、ICTパートナー選びなどが遡上に上がったほか、主催者であるNTTコミュニケーションズや聴衆となるITマネージャーにもメッセージが送られた。

さまざまな調査結果を基に議論を進めるモデレータのITR 舘野

ITR 舘野:今回のNTT Communications Forum 2011の基調講演では、「グローバル・クラウド・ビジョン」などが示されていました。また、いわゆるグローバル化を前提としたクラウドは信用性が高いといった議論も、おそらく皆さんのメディアで語られているところだと思います。グローバル化を理由に、クラウドを導入している会社は実際にどれくらいあるのか、日経BPの星野さん、教えていただけますか?

日経BP 星野:クラウド前提にグローバル化を進めている会社はたくさんあります。ぱっと思いついただけでも、たとえばカシオ計算機さん。同社は、ブラジルやフィリピンの拠点を作るために、営業支援システムをクラウド化して、短期間で現地に展開しています。また、シスメックスさんという医療検査機器の会社も、何年か前にERPをクラウド上に作って、海外拠点にがんがん展開してる最中です。もっというならば、ファースト・リテーリングさん。今作っているユニクロの「G1(Global-1)」というシステムは全部クラウド上に構築しています。枚挙にいとまがないっていうのが、正直なところです。

ITR 舘野:なるほど。最近はクラウドのサービスもようやく技術的に成熟し、サービスレベル面でもだいぶ業務に使えるようになってきてる印象を受けます。昨日は、私もNTTコミュニケーションズの社長の基調講演を聞いてきましたけれど、いわゆるネットワーク仮想化を使って、データセンター間、さらに国境をまたいだロケーションフリーを進め、システム移行を実現するんだと、かなり熱を込めて話していました。大谷さん、こうしたクラウドの最新動向やネットワーク仮想化について教えてください。

ASCII.jp 大谷:日本では2年くらい前にクラウドサービスみたいなのが始まっていましたが、当時は正直いってレンタルサーバーとか、ホスティングの延長でした。しかし、この1年でずいぶんクラウドっぽいサービスが出てきました。分や時間単位の従量課金やリソースをどんどん増やせるElasticなサービスも増えてきましたし、APIを公開する事業者も、増えてきました。

最近は、複数のクラウドを信頼性やコストなどの要件によって使い分けたり、プライベートクラウドとパブリックを相互接続するという形態が増えています。もう1つは、ロケーションをまたいで仮想マシンを移動させたり、相互接続させるという動きがあります。これにはデータセンターのレベルと、クラウドのレベルがあるのですが、ネットワークには遅延もあるし、まして接続先は海外になると簡単には実現できません。今後のクラウド事業では、こうした課題に取り組んでいく必要があります。NTTコミュニケーションズのビジョンも、その動向を見据えた動きだと見ています。

ユーザー動向について語るCNET 別井、クラウドの最新技術を説明するASCII.jp 大谷

クラウドの価値はコスト削減?ビジネス価値?

ITR 舘野:別井さんにお伺いしたいんですが、ZDNetでクラウドに関する調査をやったそうですが、ユーザー企業でクラウドのメリットが浸透してきているんでしょうか?

CNET 別井:ZDNet Japanのほうで5月にクラウド環境の運用管理の実態に関する調査を行ないました。従業員数50人以上の企業に対して実施したんですけれども、クラウドの導入で期待することという設問に対してはトータルコストの削減っていうのが一番に挙がり、次に省エネ、省スペース化。あと人員の削減っていうのが続いており、クラウド導入で人件費を下げることまで期待されていました。しかし、実際にクラウドを導入して得られた運用面の効果は何ですかっていう質問に対しては、ハードウェアのコストが削減できたっていうのが全体の20%、運用コストの削減と答えたのが全体の15%でした。要は、ハードウェアのコストは削減できたけれども、運用コストの削減はできなかったっていう、ちょっと意外な部分の答えでした。

ITR 舘野:とはいえ、今後はコスト削減メリットだけではなく、クラウドもビジネス価値の追求が必要になると思うのですが。

日経BP 星野:クラウドの特性は、やっぱりデバイスを問わないとか、N対Nのコミュニケーションが非常にやりやすいという点です。たとえば、トヨタさんは自動車をクラウド端末にしようとしていますよね。マイクロソフトやセールスフォースと組んで、センサーから集めた情報を渋滞情報に使ったり、レストランの案内にも使うということをやろうとしています。「M2M(Machine to Machine)」みたいな言い方をしますが、ネットワークに接続され、相互がコミュニケーションできるようになると、すごいビジネスチャンスが生れると思います。

クラウドのビジネス的な価値についてコメントするITmedia 浅井、日経BP 星野

ITmedia 浅井:クラウドのビジネス的な価値という点では、星野さんには、いい点を突いていただいたなと思います。Internet of Things(IOT)っていう言い方をしますが、センサーを使って情報を集めて、解析するとか、「ビッグデータ」のような分野は日本は絶対に得意なんですよ。ただ、なんだかわからない世の中のデータをひっかき集めてきて、少し解析のようなことをしてみんなに再配布する。あのアーキテクチャの転換、コンピュータの役割の転換っていうのは、悔しいけどGoogleが見せてくれたなあと思うんですね。

ASCII.jp 大谷:ビッグデータの分野で日本の強みっていうところが生きるというのは、浅井さんがまさにおっしゃった通りです。今までは交通情報を見て、どこが混んでますねっていう話だったと思うんですけど、これが仮に地震が起こったらどうなるとか、ここの電車が止まったら、どの電車に乗り換えたらいいかというデシジョンにまで使える。これは、やっぱりコンピュータの能力が上がったことと、今まで捨てていたデータを再度活用するっていう考え方があったから実現したことです。あともう1つ大きいのは、単にデータをストアするだけじゃなくて、「みんなで使いましょう」という共有の価値があるから、クラウドが重要になると思うんです。今回の震災のICT活用もいい例でしたが、そういったところで日本の強みが生かせるんであれば、日本にデータセンターを置いて、海外から日本のクラウドを使ってくださいっていうビジネスも今後は十分ありだと思うんですよ。

(次ページ、グローバル時代の事業者の生き方とパートナー選び)


 

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