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第2回メディア横断企画「グローバルICT討論会」の楽しみ方 第3回

グローバルICT討論会(前半)、詳細レポート

グローバル化で変わる情シス、クラウド活用、ICT戦略

2011年10月17日 09時50分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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9月27日、IT関連メディア4社が参加する「第2回メディア横断企画 グローバルICT討論会」が開催された。「新グローバル化時代に求められる企業のICT戦略とは?」をテーマにした前半のクローズ討論会では、さまざまな課題出しが行なわれた。

【第2回メディア横断企画】グローバルICT討論会

ITアナリストとメディア首脳が直言。
新グローバル化時代に求められる企業のICT戦略とは?

パネリスト
浅井 英二氏 アイティメディア ITインダストリー事業部 エグゼクティブプロデューサー
別井 貴志氏 朝日インタラクティブ CNET Japan編集長
大谷 イビサ アスキー・メディアワークス TECH.ASCII.jp 編集長
星野 友彦氏 日経BP コンピュータ・ネットワーク局 ネット事業プロデューサー 兼 日経コンピュータ編集プロデューサー
モデレータ
舘野 真人氏 アイ・ティ・アール シニア・アナリスト

(以下、敬称略)


本気で進む企業のグローバル化

 震災を機に海外への移転を検討する企業は確実に増加している。昨今の円高がその状況に拍車をかけているのも間違いない。では、グローバル化はどの程度進んでいるのか? こうした動向に情報システム部がついて行けるのか? また、グローバル化において情報システム部のみが後回しにされてしまう現状があるのではないか? 討論会では、こうしたグローバルICTと情報システムとの関わりが遡上に上がった。

アイティメディア ITインダストリー事業部 エグゼクティブプロデューサー 浅井 英二(左)、日経BP コンピュータ・ネットワーク局 ネット事業プロデューサー 兼 日経コンピュータ編集プロデューサー 星野 友彦(右)

ITR 舘野:震災を機に海外に進出する企業が、今後どんどん増えていくと思うのですが、そういう動きがありますか?

ITmedia 浅井:今までも企業のグローバル化という流れはあり、今回の震災がきっかけになってその流れが加速しています。たとえば、協和発酵キリンは節電対策として、東日本に2カ所あった研究部門をアジアの研究機関に移していくと話していました。電力がきちんとないと研究できないということもあるんでしょう。あと、7月にやったITmediaのCIOのラウンドテーブルでお話を伺ったニコンのイメージ部門は、すでにグローバルの売り上げは8割を占めており、20%しか売り上げのない日本に本社を置く理由がなくなりつつとあるおっしゃっていました。

日経BP 星野:日本の企業にとって、中国、フィリピン、ブラジルといった新興国は、あくまで製造拠点というのがメインで、販売は現地の代理店に任せていました。だけど、これでは情報が集まらないし、いまや先進国で売れ残ったモノを新興国で売っても、もはやビジネスになりません。その点、現地に法人を立て、市場をいかに短期間に把握できるかが重要になっています。現地でニーズをとらえ、機能として最先端のものを持って行かないと、それこそ負けてしまいます。

ITR 舘野:製造業と同じように、その他の業種でも今後グローバル化が進んでいくのでしょうか?

ASCII.jp 大谷:弊社の話で恐縮ですが、角川グループもアニメやマンガ、ライトノベルなどを展開すべく、中国の現地法人と合弁会社を立ち上げていたりしています。ある意味、レガシーな事業の出版業界にもこうしたグローバルの波が訪れています。

CNET 別井:現在、日本でもっとも元気のよいのがソーシャルサービスを展開するネット事業者です。こうしたネット事業者も事業スピードから考えると、海外進出は避けて通れません。ただ、海外に出ようとしても、現地の事情が分からないことも多い。ネットワークやらサポートなど、どこに頼めばよいかわからないんです。実際に過去、海外進出して失敗しているところも多いですし。だから、そういった会社は海外進出はやはり提携や買収などで行なっています。

ICTパートナーになにが必要か?

アイ・ティ・アール シニア・アナリスト舘野 真人

ITR 舘野:確かに海外の事情がないままに、現地展開するのは難しいですよね。行ってみたらびっくりということも多いようです。

ASCII.jp 大谷:海外の情報が少ないのは、われわれにも責任があります。1990年代後半は、私たち自身が米国へ行って、その目でデータセンターやドットコム企業のビジネスを伝えることができました。しかし、9・11以降やその後の不況で海外へ出向くことが極端に減りました。今こそ、海外のインフラ情報が重要視されるのに、情報として持ってないという反省があります。

日経BP 星野:こういうところでICTパートナーの出番だと思うんです。たとえば、日本企業がベトナムの奥地に回線引くのを調べようとしても、誰もわかりません。汗をかいて知るしかないんです。こうした点、ラストワンマイルをきちんと知っているローカルキャリアときちんと話ができるICTパートナーは重要です。

ITmedia 浅井:グローバル進出している企業の方が直面したトラブルはやはり相手国の法規制の対応で、結局現地法人のガバナンスが効かなくなってしまったといってました。あとは、サポートできる人材の有無も重要だし、国によっては盗聴や検閲の危険性や、従業員による情報漏えいリスクというのもあります。こうした点をきちんと把握しているパートナーが必要だと思います。

日経BP 星野:建築家が現地の法規制を知らないで建築物を設計できないのと同じですよね。

ASCII.jp 大谷:これに対して、今まで国内ITベンダーがグローバル進出するといっても、現地に事務所をおいて、現地語でサポートするだけでした。つまり、浅井さんがおっしゃったようなユーザーが真に必要な情報を持ち得ていなかったんです。しかし、今後は現地のシステムにあうサービスや情報を提供できる点までカバーする必要が出てきます。

グローバルICTと情報システム部

ITR 舘野:今までは日本が司令塔で、新興国を製造拠点でしたが、グローバルでの売り上げの割合が変わったり、新興国を市場として見なすのであれば、ICTもそれに追従する必要がありますね。

日経BP 星野:今までは、日本で業務システムを作って、これからはグローバルで作ったものを日本に持ち込むくらいの話になります。実際、花王は2000年前後からアジアへ進出して、システムの統合を進めていました。そこで2005年にはASEAN諸国のシステムを統合し、そのSAPの仕組みを逆に日本に導入したんです。当然日本国内では大反発だったのですけど、その反発を社長のリーダーシップで押し切って、グローバル化を進めたという話です。

ASCII.jp 大谷:グローバル化は3・11の震災の影響も大きいです。もちろん、生産拠点の移転という話もあるのですが、震災の前と後で情報システムの考え方はずいぶん変わっています。昔はデータセンターが海外にあるというだけでNGだったですけど、最近ではDRやBCPの観点で海外展開を視野に入れる会社も増えていますし、Gmailのようなビジネスアプリケーションにいち早く移行するという動きもありましたね。

ITR 舘野:以前は、最近では既存の情報システム部にくわえて、グローバル情報システム部が設立されたところもあります。こうなると既存の情報システムが抵抗勢力になってしまう可能性もあります。情報システム部のグローバル化も重要ですね。

日経BP 星野:IT部門の公用語を英語にした製薬会社にお邪魔したことがありますが、社内のIT関連のドキュメントが全部英語にしたのですが、すごい大変だったそうです。ですけど、それをやらないと海外の連中は納得してくれません。海外は雇用形態もITベンダーとの契約も異なるわけですから、それに合わせて説明できるだけのガバナンス体制を作っていく必要があります。これができるのはやはり経営で、受け身のIT部門では難しいです。

ITmedia 浅井:グローバルカンパニーの代表格であるGE(ゼネラル・エレクトリック)の情報システム部は、IT部門の役割は経営戦略をITに翻訳することと認識し、ビジネスの端から端までIT部門が責任を持ちます。また、グーグルなんかは、ある一定の比率を自分の研究に費やしていいですが、GEのような伝統的な会社は教育にやはり力を入れていて、次の世代のリーダーを育てるため、2年間世界の事業部を6ヶ月ずつ4カ国回らされるそうです。

アスキー・メディアワークス ASCII.jp編集部 大谷イビサ(右)、朝日インタラクティブ CNET Japan編集長 別井 貴志(左)

CNET 別井:GEの例は理想ですが、日本ではCIOという概念すらまだ拡がっていません。IT部門が経営戦略に密接に関わり、こういうシステムを作りなさいと言われるのではなく、こういうシステムを作りましょうと提案できるようになるのはずいぶん先の話です。永遠のテーマですね。

日経BP 星野:経営にとって、ITはコストだと思われていますから、CIOはもっと発言し、自分たちのやっていること、存在感を表に出す必要があります。経営層がわかってくれるよう情報発信しないといけないと思います。

ASCII.jp 大谷:クラウドの存在もありますが、サーバーを買ってきてキッティングする、アプリケーションを入れるといった泥臭いし仕事はどんどん消えてきて、今後は経営層にITのメリットをプレゼンするといったことが業務になってくると思います。

グローバルICTで活用されつつあるクラウド

ITR 舘野:インフラという観点ではどうでしょうか? グローバル展開という点では、クラウドの導入も進んでいるようですが。

日経BP 星野:新興国に出て行くときや、新たにシステムを作る場合にはクラウドファーストになっています。今あるモノをクラウド化してもまずサービスレベルは下がりますし、コストは上がるという意見もあります。しかし、エラスティック(伸縮可能)で、スピーディなのは事実ですから。

ASCII.jp 大谷:私もクラウドがコスト削減に結びついているのは間違いだと思います。現在、クラウドのお得意さんであるサービスプロバイダは、やはりインフラを丸ごと調達できるスピード感に魅力を感じています。これが一般企業に当てはまるかわかりませんが、スピード感の重視されるグローバル企業においては魅力的に映るのではないでしょうか? 

 議論を見ればわかるとおり、企業のグローバル化は着実に進んでいるにもかかわらず、ICTの観点での全体戦略はいまだに定まらず、情報システムのあり方なども課題になっている。一方で、グローバルICTの展開において有効な手段としてクラウドが一般化しており、こうしたサービスの導入を視野に入れたICTパートナーの選択肢も増えている。実際にどのようなグローバルICT戦略を成功させるために企業がとるべき具体的な施策は、10月28日のNTT Communications Forum 2011で開催される「【第2回メディア横断企画】グローバルICT討論会 in NTT Communications Forum 2011」で確認できる。気になる読者は、下記から申し込んでもらいたい。

【第2回メディア横断企画】
グローバルICT討論会 in NTT Communications Forum 2011

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