ベーシスト、あるいはベースという楽器にどんなイメージをお持ちだろうか? 高度な音楽的知識と技術なしには成り立たない、バンドサウンドを決定づける重要なパートである。
が、主役はボーカリストやリードギターに持っていかれ、ともすれば安いスピーカーでは聴き取れない、まるで空気のように地味なもの。残念ながらそんな風に捉えられることもなくはない。確かに一部の天才やイノベーター以外は、いまひとつスポットライトが当たらないのも事実であろう。
ところが我が国のニコニコ動画では、妙な感じで存在感を示しているのがベースという楽器、そしてベーシスト達である。呆れ返るほどのテクニックを持ち、難しいフレーズも平然と弾きこなしてしまう彼らベーシストに共通するキーワードがひとつある。
それは「変態」※。
※ もちろんマトモな方も大勢いらっしゃいます。
ニコニコ動画で一番有名なベーシスト、「H.J.Freaks」はその変態ワールドの頂点に君臨する。本名をキム・ヒョンモ(Kim Hyun-mo : 김현모)といい、韓国からベースの「やってみた」動画をアップロードし続け、瞬く間に現在のポジションを築いた。最初は正視するのも難しい動画だが、超絶的なハイテクニックを楽しそうに繰り出す姿をチラ見しているうちに、なぜか目がなじんでいく。
そうした彼の浸透力は神がかり的で、カリフォルニア州知事選候補メグ・ホイットマン(米HPのCEOでもある)の広報担当が、Twitterで他のツイートを引用する際、短縮URLの最後の一文字を削ってしまったために、あろうことかH.J.Freaksの動画に飛んでしまった。それがネット上で大騒ぎになり、彼は期せずして全米デビューを果たしている。
そんなわけで今週はニコニコ動画No.1、いや世界的にも稀に見る変態ベーシスト、泣く子もキモいと大笑いする(かも知れない)、H.J.Freaksの登場だ!
※ 取材はSkypeのテキスト&ボイスチャット(日本語)で行ないました。会話のニュアンスを活かしているため、H.J.Freaksの日本語がやや不自然に見えるところがあります。話者も思わず爆笑してしまった絶妙な空気感をお楽しみください
固定観念ばかりではベーシストになれない?
―― まず聞きたかったんですが、どうしてベーシストには変態が多いんですか?
H.J.Freaks それはですね、変態じゃないとベースが弾けないからですね。

H.J.Freaks(写真はTwitterのアイコン)
―― うははは。それはなんで?
H.J.Freaks ギターが好きになってギターを練習する人は多いんですけどね。元からベースが好きになってベースをやっている人は、あんまりいないと思います。
―― ああ、ギターから何かの事情で持ち替えた人、多いですよね。
H.J.Freaks ベースにもいろんな形がありますけど、変態的な発想がないと、5弦ベースとか6弦ベースとか7弦ベースとか8弦ベースとか、出てこなかったと思いますよ。6弦のギターを7弦にしたのは、変態ギタリストのスティーヴ・ヴァイさんが初めてではないかと思います。あの人も変態だったので7弦ギターが出てきたと思いますけど、多弦ベースはそのずっと前からあったんですよね。だからベースを作っている人にも、変態が多いと思う。固定観念ばかりだったら、こんなベースは想像ができなかった。そういう変態すぎるベースを好きになる人は、変態じゃないかと思います。
―― ベース関係者はみんな変態と。よく分かりました。
H.J.Freaks その変態が盛り上がっている動画もありますけどね、ベーシストが10人集まって弾いている動画なんですけど。

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