ヒト、モノ、カネから
人と人との関係へ
これらの中で、最後の「オフィス」という戦場はいくらか地味にも見えるが、ここはもともと世界のコンピュータ業界の主戦場だったところである。
かつて、「ワープロ」、「表計算」、「データベース」の3つは、パソコンソフトの「三種の神器」と呼ばれた。紙とボールペン、電話、テレタイプしかなかった時代のことを考えてほしい。この3つを使いこなすことで、オフィスでの業務が何倍も効率化されたことは間違いない。
パソコンがより個人のための道具になった結果、いまでは3つ目は「プレゼンテーションソフト」(マイクロソフトでいえば「PowerPoint」)になった。ソフトウェアというのは、使う人のキャリアから人生まで変えてしまえる、本当に魔法の箱だとわたしは信じている。
ところが、「Microsoft Office 365」や「Google Apps for Business」では、ワープロや表計算が“部分”としてしか扱われていないように見える。
いまのところ、ワードやエクセルのファイルが必須というユーザーが圧倒的に多く、それがマイクロソフトの重要な収益源になっているのは確かだ。そのポジションは、当分の間、簡単に変わるものではないだろう。しかし、Googleもマイクロソフトも、とっくにワープロや表計算を無料で提供しているのだ(どちらもWeb版で、GoogleはDocs & Spreadsheet、マイクロソフトはOffice Web Appsで簡易的なサービスを提供)。
この2社が唱えているのは、オフィスにおいて、いまや重要なのは「コミュニケーション」や「コラボレーション」だということである。ワープロや表計算がコモディティとなり、最後に残されたオフィスの課題は、人と人の間にこそ横たわっているというのだ。
7月12日のコラムで、わたしはGoogleの新しいソーシャルメディアである「Google+」について、「単純に、サークルやビデオチャットをうまく使うと、グループウェア的なコラボレーション作業ツールとして重宝しそうでもある」と書いた。そして、「Google DocsなどのGoogleの既存サービスを、ソーシャルで使いやすくするという話かもしれない」とも書いたと思う。
実際のところ、Google Apps for BusinessとGoogle+は、いずれどこかでガッチャンコと接続する可能性がある。自然が真空を嫌ってその間を埋めようとするように、「クラウドも真空を嫌う」というのが摂理ではないだろうか? このソーシャルサービスを持っていることが、「オフィス」の領域におけるGoogleのアドバンテージになるのではないかという気もするし、マイクロソフトも黙って見てはいないだろうとも思える。
実は、企業向けにサービスを提供してきた会社は、すでにこれに取り組んでいる。たとえば、Salesforceは、TwitterやFacebookにも似た(かつ、それらとつながる)「Chatter」というサービスを提供して話題となっている。フリーで使えるソーシャルメディア系のツールを、そもそもフリーのモノを使いたがらなかった企業があえて導入する事例が出てきているという話もある。
もちろん、企業内におるけコミュニケーションやワークグループの生産性は、いままでもITの重要なテーマだった。しかし、従来の企業の情報システムは、「ヒト」と「モノ」と「カネ」を中心にとらえて作られていた。いわゆる「ERP」(Enterprise Resource Planning=企業資源の有効活用)の世界でもある。これのアウトプット(とくにお金)を見て、企業は経営判断を行ない、活力を増すようにしてきた。
ところが、ビジネスを実際にドライブしているのは、「人と人の関係」と「時間」と「案件」なのだということだ。
たしかに、仕事に関する情報がタイムラインの上に流れてきて、Google+の「サークル」のような感じで案件ごとに切り替えて眺めることができれば、「これがビジネスの正体」だとさえ思える。その背景には、もちろん企業のリソースはあるだろうが、経営者からエンジニアからセールスマンまで、ビジネスの活動自体はこういうものだろう。これらは、企業の中と外にまたがっていることが新しい部分でもあり、いわゆる「中の人」という言葉なども、そんな関係で出てきている。
日本ではいま、Facebookがすごい勢いで会員数を増やしている。Google+の前に強力に立ちはだかっているのはやはりFacebookだが、Google+は完全にFacebookのコンペティターになろうとしているのか、あるいはそうではないのか? 「サークル」や「タイムライン」、「モバイル」との自動連携といった、インターフェースの実験をしているともいえるのではあるが。
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