Google+は
容量無限のストレージとなる
「GDrive」をご存じだろうか? Googleが提供すると何度も噂になっているネットドライブで、ちょうど「Dropbox」のようなものと考えていいだろう。2006年3月のアナリスト向けの配布資料の中に、これについての説明が紛れ込んでいて話題となった(どのくらいのインパクトがあるのか、Googleが“試した”のではないか、などと言われた)。
GDriveは、「無限の記憶容量」を提供する点が最大の特徴とされるが、われわれはそれを少し違ったかたちで、すでに手に入れているのかもしれない。
6月末のある日、Google AndroidエバンジェリストのAさんから招待が来て、「Google+」のテストサービスを使い始めた。Google+が成功するか否かについては、まだあまり議論もされていないが(「あれが足りない」「これが使えない」という議論はなされている)、何か新しいコンピューティングの始まりを感じさせるものがあると思う。
Google+を使って最初に驚いたのは、「GALAXY Tab」で撮影した写真が、いつのまにかGoogle+にアップロードされていたことだ。Google+をAndroidアプリで使うようになると、あなたのスマートフォンに、「Eye-Fi」(デジカメで撮影した写真を自動的にクラウドにアップロードする無線LAN付きSDカード)が装備されたような感覚になる。
たとえば、神楽坂の「新東記」というシンガポール料理屋で「肉骨茶」という料理の写真をGALAXY Tabで撮影したとする。すると、何ら余分な操作をすることなく、Google+の「写真」(その正体はPicasaなのだが)に、ほどなく登録されるのである。PCで電子本を買ったら、いつの間にか自分のKindleに本が入っているという、Amazonの「Whispernet」の感覚にも似ている。
Androidは、すでに「Google+のエコシステムの一部」になっているのだ。
しかも、Google+では2048×2048ピクセル以下の画像を、無制限にアップロードできる。明らかに「写真」がとても便利に使えるようになっていて、この部分に関しては、「Google+はPicasaのソーシャル化である」といってもあながち間違ってはいないだろう。サークルに入れた友人たちのアップした写真を、「写真」メニューでまとめて見られるのも、新しい体験である。ちょっと構造は異なるが、写真版のPaper.liともいえる、サマリー閲覧機能である。
この「写真」という話でいうと、「Facebook」は写真で成功したウェブ企業だと思う。Facebookはその名のとおり、“顔写真”が出ているところを最大の価値としてスタートした。「顔」があるから仕事の話もできるし、知り合いを発見できるし、自分の付き合いやすい人間か否かを判断できる材料になったりする。「顔」という最大の「表現媒体」を使ったところが、Facebookが成功した理由のひとつだろう。
その意味では、Google+の「写真」が使いやすいというのは、賢い戦略だと思う。
そして、いま米国の主要ネット企業は、写真のさらに先にある、人々の「五感」を奪い合っているのだ。アップル、Google、Amazon、Facebookは、クラウド型音楽サービスで激しく競合している。米国では、Facebookでもビデオの投稿が非常に増えており、ビデオチャットも大きなテーマになっている。この領域でも、Google、アップル、マイクロソフト(Skype)、Facebookが競合することになった。
世界は「五感」に向かっているのだとすると、いまや日本で、電子書籍やスマートフォンなど、それぞれに閉じた議論をしている場合ではないだろう。
ちなみに、これはSNSについての個人的な意見だが、Facebookの「いいね!」やTwitterの「RT」には、文章組み立てツールのようなところがあると思う。別にちゃんとした文章を生成するわけではないが、人が気持ちを言葉にしてさまざまなかたちで届けたいというのを、簡便化する働きがあるからだ。そういったものが、これから「五感」のほうに向かっていくことになるのは確実である。
冒頭で、「われわれはGDriveをすでに手に入れているのかもしれない」と言ったのは、Google+が、無限に写真をアップロードできるという理由だけではない。この調子で、人々のすべての気持ちがクラウド上でやりとりされるのだとすると、それがすなわち、みんなが持っていたいデータのすべてになると思えるからだ。欲しい情報のすべてがそこにあるのなら、それは無限の記憶容量のストレージを持つことと同じではないか。