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西田 宗千佳のBeyond the Mobile 第70回

新世代ThinkPad X1は究極の「モバイルノート」か?

2011年05月26日 12時00分更新

文● 西田 宗千佳

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バッテリー80%を30分で充電する
「RapidCharge」が光る

 バッテリー駆動時間は、カタログ値(JEITA測定法1.0による)では約5.8時間。ベンチマークソフト「BBench」を使った実測では、最大で4時間30分以上となった。カタログ値から見れば十分に優秀な、納得できる値である。ただし本格的なモバイルノートパソコンとして見ると、やはり足りないと感じる。

BBenchによるバッテリー駆動時間テスト
フルパワー設定 省電力設定
約3時間6分 約4時間37分

 だが、それを補ってあまりあるのが、「RapidCharge」と呼ばれる急速充電機能の存在だ。X1の場合、レノボでは「80%までは30分で充電が完了する」としている。実際今回実測したが、おおむねこの数値は正しかった。また、残る20%分の充電時間も短い。80%から99%までがさらに30分程度で、満充電でも1時間程度であった。

 そもそもリチウムイオン充電池は過充電を防ぐために、満充電に近づくほど慎重に充電する傾向にあり、その分充電にかかる時間が長くなる。X1ではその点を突いて充電を高速化したわけだ。

 ここで重要なのは、「8割まで30分」という点だろう。これは使っていると「本当にすぐ充電が終わる」感覚だ。お茶を飲むために一休みしている間に充電ができてしまう。

 X1のバッテリーにおける考え方は、「無理にバッテリー駆動時間を長くしなくても、すぐに充電できるならそれでいい」という発想にある。こういう機能は、特にアメリカのように「公共の場にある電源は自由に使っていい」というコンセンサスがある地域では有効だろう。「ACアダプターも一緒に持ち歩くのはかさばる」という問題はあるものの、ここまで充電時間が短ければ確かに有効だ。

起動関係はとにかく高速
チューニングが良好な使い勝手に生きる

 X1の中でも今回試用した「129128J」は、ストレージに128GBのSSDを採用している。現在出荷されているThinkPadの多くは、「Lenovo Enhanced Experience 2.0」を採用している。これには、OSの起動シーケンスを最適化して、起動時間をできるだけ短くするという技術が含まれている。X1の場合、手元に届いた試用機の実測でも、おおよそ20秒前後だった。確かに高速だ。

 むしろ筆者がいいと感じたのは、スリープからの復帰時間の早さだ。ディスプレーを閉めて一時的なスリープ状態にし、そこから開いて再び操作ができるようになるまでの時間が非常に短い。多くのPCでは数秒から10秒程度待たされるが、X1はほぼ瞬時。特にポインティングデバイスよりキーボードの認識が速く、キー操作で再起動させれば、ラグはほとんど感じない。

 こうした工夫には、ドライバーを含めた電力管理機能のチューニングが必要であり、Windows PCでは「OSとハードが密着しているアップル製品に比べて不利な点」と言われ続けてきた。だがX1の反応はMacBook Proと大差なく、十分にクイックなものに思えた。

 さて、結論だ。X1はとても完成度の高いハードウェアである。だが、その完成度は「ビジネス指向のThinkPad」と言うよりも、「クオリティーの高いIdeaPad」のようだ。より個人向け、その中でもハイエンド市場向けに舵を切ったのが、ThinkPadにおける「X1」の役割のようだ。

 ビジネスにも使えるが、それだけじゃもったいない。パソコンを時に持ち出す、アクティブな個人向け(でもビジネスは忘れない)といった製品のようで、従来のThinkPadとは違う層を狙った製品に見える。そうならば、X1の狙いと完成度は十分と言える。

 他方で、X1を「高級機」として見ると、いろいろ残念と言うか足りない。特に気になるのはディスプレー仕様だ。このボディーサイズなら、14型でも十分搭載できたはず。解像度が1366×768ドットというのも物足りない。ディスプレー周囲の黒枠がもったいなくも感じる。

 また、これだけのボディーサイズでありながら、独立GPUには対応していないのももったいない。薄さを実現するにはGPUの搭載が難しかったのかもしれないが、このサイズとこの価格なら、もう少し上の性能を目指してほしかった。

 使ってみると非常に快適な、良くできた製品なのだが「ここまでやるならもう一歩……」と思えてしまうのが、X1の率直な感想だ。

お勧めする人
・高級感と高性能の両面を満たしたビジネス向けノートが欲しい人
・「ちょくちょく充電できる」環境にある人
ThinkPad X1(129128J)の主な仕様
CPU Core i5-2520M(2.50GHz)
メモリー 4GB
グラフィックス CPU内蔵
ディスプレー 13.3型ワイド 1366×768ドット
ストレージ SSD 128GB
光学ドライブ 搭載せず
無線通信機能 IEEE 802.11a/b/g/n、WiMAX、Bluetooth 3.0
インターフェース USB 3.0×1、USB 2.0×1、USB 2.0/eSATAコンボ×1、Mini DisplayPort出力、HDMI出力、10/100/1000BASE-T LANなど
サイズ 幅337.0×奥行き231.1×高さ16.5~21.3mm
質量 約1.69kg
バッテリー駆動時間 約5.8時間
OS Windows 7 Professional 64bit版
直販価格 21万8400円(5月27日受注開始)

■Amazon.co.jpで購入

筆者紹介─西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「iPhone仕事術!」(朝日新聞出版)、「iPad vs.キンドル」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う? 世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(共著、徳間書店)。「電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)。最新刊は「災害時ケータイ&ネット活用BOOK」(共著、朝日新聞出版)が発売予定。

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