フォーマット・DRM……ユーザーの利便性と権利保護
――そのコンテンツフォーマットの汎用性についてもお伺いしたいところです。前回の記事では、電子書籍に求めることとして、「検索・引用ができること」「ソーシャルな読み方ができること」といった要件を挙げました。それを実現するためにはデータがオープンで汎用的なものであることが求められます。
萩野 XMLをベースにするEPUBはその要件を満たすものにもっとも近いかもしれません。ただ、では専用方式のAZWを採用するKindleが閉鎖的かといえば、そうではなく、コンテンツ自体にかけるDRM(デジタル著作権管理技術)がむしろ問題となってきます。
PDFであろうと、EPUBであろうと、Amazonは歓迎だと言ってます。それをKindleで読むために、AZWという彼らのDRMでパッケージしているにすぎません。別に共通性を阻害しているというわけではないんですね。
逆に言えばEPUBを採用するGoogleブックスやiBooksであっても、DRMが掛かればオープン性は損なわれるという意味では同じです。
――「DRMは有料でコンテンツを買った客を泥棒扱いしている」という批判もあります。
萩野 紙で出版した書籍が、スキャンされて海外で海賊版として出回っている現状を考えれば、デジタルコンテンツにDRMをかけることにあまり「実効性」はないと考えています。
ただ、僕はDRMを「否定」する立場ではないんですよ。いろいろな障壁を乗り越えて、いざデジタルで流通したのに、それがタダでいろんなところにばら撒かれたりしたら、ものづくりにかかわった人が困ってしまう、だから防衛したい、正規に流通させたものを読んでほしい、という思いも理解しているつもりです。
一方で、DRMをかけた結果、読者の利便性が下がることがあってはならないというのは先ほど述べたとおりです。
現状は、利便性と権利保護の間で綱引きの真っ最中
――音楽の世界でもずっと指摘されていることでもありますね。CDはそうではないのに、iTunesで購入したものにはDRMが掛かっている、それに果たして意味があるのかという……。機器の買い換えの際にコンテンツが移行できなかったり、煩雑な手続きが必要であったりするのも、不満を高めているひとつの原因だと思います。
萩野 iPad/iPhoneについては、ほかのアプリ同様、アプリやコンテンツをコピーすることができないようになっています。また、ボイジャー独自の仕組みとしては「T-Time Crochet(クロッシェ)」と名付けた、ストリーミング方式でコンテンツを配信するプラグインを用意しています。
たとえどんなにボリュームがある本でも、読書の際、ユーザーが一度に目にする、つまり手元に必要とするデータは見開きページぶんだけです。「T-Time Crochet」では、必要なぶんだけをその都度配信するというわけです。ユーザーの利便性を維持しながら、コンテンツを守ることができる仕掛けですね。
――できるだけ、ユーザーの利便性を下げずに、一方でコンテンツの権利を守る取り組みが続いているということですね。ただ、現状では、「あたかも手元にあるように、検索したり、引用したり」ということはできないことがほとんどであるのが残念です。
萩野 私自身、電子書籍に長く携わってきて感じることは、「人間、今やっていることが一番理解できていない」ということです。おっしゃるように、検索や引用はできたほうが便利だし、やればよいことだと思います。ただ、いまこれから電子書籍に取り組もうとしている人たちは、やはり、作品が不正に利用されることに対する心配がどうしても拭えない。
技術の進化ももちろんですし、実際に数年取り組んでみて懸念が払拭されていく――つまり権利者の側も慣れていくなかで、そういった制限が解消されていけばよいのではないでしょうか。
――「著作権最適保護水準」という概念があります。利用者の便益と、権利保護の強さはトレードオフの関係にあり、まさに時間をかけてその均衡点を探っているという段階ということがいえるかもしれません。
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