前回は、バックアップの目的についておさらいし、容量の増加に対応する運用の工夫やデータ重複除外の技術を紹介した。今回は、どの時点のデータを保持すべきか、どれくらい迅速にリカバリする必要があるかなど、より具体的な要件について整理し、ストレージのレプリケーション機能による高速バックアップ/リカバリ手法を紹介する。
リカバリポイントの設定
バックアップ手法や運用を検討する際は、まずデータをリカバリできる時点(リカバリポイント)をどれだけの期間や頻度(個数)で用意するかを整理すべきである。リカバリポイントは、以下の2つの観点から検討する。(図1)
- 障害時点と直近のリカバリポイントの許容できる時間間隔は?
- どれだけ過去のリカバリポイントをバックアップメディアに保持すべきか?
障害からデータをリカバリする際、データがどれくらい前に戻ってしまってかまわないのか。つまり、障害時にどれだけの時間分のデータを失ってしまうことを許容できるのかを検討する必要がある。たとえば、最大で12時間分のデータ損失しか生じないことを保証するには、12時間ごとにバックアップを行なう必要がある。そのためには、バックアップが12時間以内で終了する必要がある。これは、バックアップのデータ量やスループットなどの見積りおよび運用とも関連する。
データを過去にさかのぼってリカバリするケースは、ユーザーのオペレーションミスやソフトウェアのバグによるデータ破損といった論理障害がほとんどである。したがって、どれだけ過去のリカバリポイントを保持すべきかについては、ユーザーやアプリケーション運用担当者の要求と用意(投資)できるバックアップメディアの容量のバランスで決定する。
リカバリ時間の評価
障害によるサービス停止が、直接企業の売上や信頼に関わる重要(ミッションクリティカル)な情報システムでは、データのリカバリ時間をいかに短くするかが、バックアップ方式や運用を検討する大きなポイントとなる。表に、データやアプリケーションごとのリカバリポイントとリカバリ時間の要件の例を示す(図2)。
データベースなどのアプリケーションは、リカバリした古いデータに対して更新ログを適用することにより、障害直前の状態まで復旧する機能を持つものも存在する。バックアップシステムからデータをリカバリする時間だけでなく、アプリケーションの復旧に要する時間等も含めて、リカバリ時間を評価すべきである。
バックアップ/リカバリの高速化技術
ミッションクリティカルシステムのリカバリポイント/リカバリ時間の要件は、テープによるバックアップでは実現が困難なケースが多い。一般に、テープドライブからのデータリカバリには、
- データおよびメディア特定のためのバックアップソフトウェアのカタログデータの検索
- テープメディアのロードおよび早送り/巻き戻し
- データのリカバリ
といった動作を伴うため、高速化には限界があるためだ。
そこで、テープバックアップでは生じてしまう問題点を解決すべく、新しい技術が考案された。それが、ストレージ自身に論理ボリューム単位のレプリケーションを作成し、そのレプリケーションボリュームをバックアップとして利用する方法である。(図3)
まず、バックアップはソースボリュームとターゲットボリューム(レプリケーションボリューム)との同期として行なわれる(図3-①)。ストレージはソースボリュームとレプリケーションボリュームの関係を認識しており、外部からのコマンドを通じてデータの同期と切り離しを行なう(図3-②)。作成されたレプリケーションボリュームは、ストレージ内に保持するバックアップとして機能する。リカバリの際には、レプリケーションボリュームから逆同期処理することにより、ソースボリュームをリカバリポイントの状態に戻す(図3-③)。
同期・逆同期いずれも、ストレージが差分データを管理しているため、データのすべてを転送することなくバックアップとリカバリを高速に実行できる。また、データの転送には外部ネットワークを利用せず、広帯域なストレージ内部バスやチャネルを使用するため、サーバやネットワークの能力に依存しないバックアップ設計が可能だ。
このストレージのボリュームレプリケーション機能は、EMCのハイエンドストレージであるSymmetrixにTimeFinderという名称で実装・販売され、1990年代後半よりミッションクリティカルシステムを中心に普及した。現在では、ローエンドからハイエンドまで企業向けストレージのほとんどの機種に、このレプリケーション機能は実装されている。
(次ページ、「少ない容量で複数のビューを提供するスナップショット機能」に続く)
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