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ゼロからはじめるストレージ入門 第7回

NAS誕生の理由と仕組みを理解しよう

FC/iSCSIとNASの違いを知っていますか?

2009年10月09日 09時00分更新

文● 竹内博史/EMCジャパン株式会社 グローバル・サービス統括本部 テクノロジー・ソリューションズ本部 技術部 マネジャー

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Windowsの「共有フォルダ」機能を設定・利用したことのある読者も多いと思うが、今回取り上げる「NAS(Network Attached Storage)」は、「共有フォルダ」などのファイルシステムをネットワーク経由で提供する専用のストレージである。最近では一般消費者向けにも多数製品がそろっており、より身近な存在になりつつある。前回紹介したFCやiSCSIと何が違うのか、NASについて見ていこう。

ファイル共有ニーズとファイルサーバの出現

 TCP/IPの普及により、ワークステーションやパソコンをLANに接続することが一般化してくると、互いにデータを共有するニーズが高まった。その中で、米サン・マイクロシステムズが1980年代後半に、UNIXベースのSunOSにNFS(Network File System)という分散(共有)ファイルシステムを実装しリリースした。NFSは、クライアント/サーバ型のアーキテクチャを採用。クライアントからLAN経由で、サーバ上のファイルシステムへ透過的にアクセスすることを可能とした。この頃から、「ファイルサーバ」という概念が始まり、研究機関や企業を先駆者としてファイルサーバの利用が広まった(図1)。

 なお、Windowsの世界では1990年代半ばのWindows NTの普及時期よりSMB(Server Message Block)、CIFS(Common Internet File System)といったファイル共有プロトコル仕様が固まり、ファイルサーバという利用形態が一般化している。

図1 ファイルサーバとクライアント

NASが必要な理由とは?

 ファイルサーバのメリットが理解され利用が進むと、多くのIT管理者は以下のような課題に直面するはずである。

  • ディスク増設やOSのパッチ適用などのメインテナンス業務が増える一方で、ユーザーの利用時間が拡大しファイルサーバを計画停止しづらくなってきた
  • ファイルサーバの容量の拡張性やCPUの能力に限界を感じるようになってきた。
  • データ増加に伴いバックアップが長時間に渡る一方、ユーザーからのファイル単位のリストア要求が増えてきた。

 ファイルサーバは構築の手軽さから、往々にして部署やグループなど小さい規模で構築されがちで、かつ管理者は専任でないケースが多かった。そのため、上記の課題や管理の負担は、他にも業務を抱える各ファイルサーバ管理者にとって切実な問題となった。

 NASは1990年代半ばより市場に登場し始め、これらファイルサーバの課題を解決するさまざまな工夫や機能が実装されている。NASと呼ばれる製品に明確な定義はないが、企業向けの製品については多くが以下のような機能を備えている。

  1. 専用もしくはカスタマイズした汎用OSを使用
  2. RAID保護可能なストレージを内蔵もしくは外部接続可能
  3. ファイルシステムのスナップショット機能などを実装

 WindowsやUNIX系のサーバOSではなく、ファイルサーバに特化したOSを使用することにより、セキュリティ対策やパッチ適用の機会を減らしメインテナンス性を向上すると同時に、ファイルサーバとしての性能を確保しやすくしている。3のスナップショットは、ファイルの更新履歴をストレージ側で管理・保持することにより、ユーザーが前日などの過去のファイルにアクセスすることを可能とした機能だ。ユーザーの誤操作によるファイルの消失(修正)にも簡単に対応できる非常に便利な機能で、企業のNASではほとんどの製品で提供されている(図2)。

図2 NASスナップショット機能概要

 現在市販されているNAS製品は、可用性や拡張性の違いにより、アーキテクチャとして図3のような3つに大別される。まず、単一コントローラタイプのNASは、部門などの小規模な環境で採用されている。コストを抑えることができる反面、コントローラが故障すると停止してしまう問題点もある。

図3 NASアーキテクチャの例

 一方で、冗長コントローラタイプは複数の部門や企業全体など、ある程度の規模でファイルサーバを統合する場合に選択される。ユーザー数が多くなるに従い、NAS障害や停止時の影響範囲は広がる。したがって、こういったファイルサーバ統合のケースでは、コントローラも含めて単一障害点のないものを選択すべきである。ハイエンドのNAS製品には、3つ以上のコントローラを搭載可能で、冗長性と拡張性(性能向上)を備えた製品も存在する。

 最後のゲートウェイタイプは、SANの環境をすでに構築済みもしくは同時に構築するケースで有効だ。SANとNASでストレージを共有することにより、容量の使用効率が向上し管理の一元化も図れる。

コストと容量を削減する新しい技術

 ユーザーとしてファイルサーバやNASを利用している読者の中で、日々不要なファイルを削除するなどの整理を行なっている方は少ないであろう。一方ファイルサーバの管理者は、増加し続けるデータに頭を抱えているケースが多い。

 ファイルサーバ上のデータを分析すると、多くの場合、ほとんど参照されていないファイルが多数存在することや、同一のファイルが異なるフォルダに分散保存されていることが判明する。企業のファイルサーバやNASは多くのユーザーが利用するため、ユーザーに対するルールの徹底でこのような「無駄」を減らすことは難しい。そこで考案されたのが、NASに対する「ファイルアーカイビング」と「重複除外(重複除去、重複排除)」機能の実装だ。

 ファイルアーカイビングは、ファイルの最終更新日時やサイズ、拡張子をベースにポリシーを設定し、該当ファイルを別の安価なストレージに移動させたり圧縮保存したりする機能で、NASのコストを削減することを目的としている。一方の重複除外は、重複しているデータを排除し単一のオリジナルデータのみ保存する仕組みで、ストレージ容量の削減を目的とする。

 NASに対してファイルアーカイビングを実現する製品として、図4のような2つの方式が存在する。図4左は、外部のサーバと専用のソフトウェアを用意し、ポリシーに基づいてファイルを他のストレージに移動させる形態だ。この方式はさまざまなNAS製品やファイルサーバに対して利用可能だが、ソフトウェアやサーバに追加の投資が必要になるため、コスト削減の効果が出るのはある程度大きい環境となる。

図4 ファイルアーカイビング方式

 一方、NAS自身にポリシーエンジンが実装され、内部で該当ファイルを移動・圧縮保存する方式も製品化されている(図4右)。この方式では追加の機器が不要なため、小規模な環境でもコスト削減効果を期待できる。

 またNASに実装される重複除外には、データブロックレベルで重複を検出・削減する方式と、ファイルレベルで重複を検出しデータ削減する方式とがある(図5)。データブロックレベルの重複除外方式は、粒度が細かいため高い容量削減効果が期待できるが、重複除外処理にNASコントローラのCPU処理を多用するため、ファイルサーバとしての性能や機能に影響する懸念がある。

図5 NASの重複除外方式比較

 こうした相反する問題を解決する技術として、EMCのNAS製品である「Celerra」では、NAS自身に実装されたポリシーエンジンによるアーカイブ技術とファイルレベルでの重複除外技術を組み合わせている。これにより、CPU負荷を抑えながら高い容量削減率を達成しているわけだ。

 これまで紹介したように、NASはファイルサーバの機能に特化すると同時に、データ保護や容量の削減などさまざまな機能を実装し始めている。たとえば、企業内での電子データのうち、増加率が高いのは非構造化データといわれている。非構造化データとは、OAファイルや画像・動画コンテンツデータを指し、最近ではデータベースに保存されているデータ(構造化データ)と区別して議論されている。非構造化データはNASやファイルサーバに保存される機会が多いため、企業におけるNASのニーズや重要性は今後より高まるはずだ。IT管理者がNASを選択する際には、ファイルアーカイビングや重複除外のような新機能によるコスト削減を検討しつつ、基本機能である可用性や拡張性も同様に重視すべきである。

 SAN、NASと2回にわたってストレージネットワークの解説をした。今回の連載を通じて、ストレージネットワークの重要性や技術の進歩について、少しでも理解いただければ幸いである。次回は、データのバックアップ・リカバリの考え方やストレージが持つレプリケーションの機能について紹介する。

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