読者の中にも複数台のパソコンを所有している方は多いと思うが、PC間のデータのやり取りやディスクの空き容量のやりくりについて悩んだことはないだろうか?企業の情報システムにおいても同様の悩みは存在する。たとえば、財務会計システムのストレージには空きがあるにもかかわらず、データウェアハウスで近々にストレージ増設が必要といった話だ。これら問題を解決するのが、これから2回に渡って解説する「ストレージネットワーク」である。
ストレージ共有・統合のニーズからネットワークへ
ストレージネットワークは、サーバとストレージのアクセスを柔軟かつ広範に行なうための仕組みで、利便性の向上やコスト削減がネットワーク構築の最終的な目的となる。ストレージの共有や統合はその手段として一般的で、図1に使用例を2つ挙げた。例1はストレージを複数のサーバで共有し、例2ではストレージに加えてデータそのものも共有している。
例2のほうがより利便性も高いが、複数のサーバから同じデータを更新する場合の排他処理など、高度な制御プロトコルが必要とされる。例1が一般に「SAN(Storage Area Network)」と呼ばれる形態で、今回はこのSANを中心に解説していく。
ちなみに、例2のストレージは「NAS(Network Attached Storage)」と呼ばれており、最近は一般ユーザー向けにもさまざまな製品が販売されている。NASについては次回解説しよう。
SANの代表Fibre Channel
一般的なネットワークの要件として、
- 配線が容易である程度の長距離接続をサポート可能
- 広帯域で遅延が少ない
- 多くのデバイス(ノード)を接続可能
といったものが挙げられるが、これらはSANの要件にもあてはまる。旧来のサーバストレージ間の接続方式は「SCSI(Small Computer System Interface)」が主流であったが、残念ながら上記要件を満たす仕様ではなく、「ネットワーク」の構築は事実上不可能だった。SCSIに使うパラレルケーブルは太くて取り回しが悪く、また同一チャネル内の接続デバイス数に制限があるためだ。
そこで1980年代後半に、Fibre Channelという従来のSCSIプロトコルも対応可能な新しいストレージ用ネットワークが考案され、1994年にANSIにより標準規格として承認された。Fibre Channelの構成要素と特徴を図2に紹介する。
Fibre Channelは、I/Oを高速・低遅延で処理することを目標とした規格のため、IPネットワークとは異なり以下のようなコンセプトで開発されている。
- 高品質な回線の使用を前提とし、プロトコルを極力シンプルに設計しオーバーヘッドを減らす。IPネットワークで使用されているTCP/IPは、品質の悪い回線でも通信の信頼性を保つため、エラー処理や再送などプロトコルが冗長で処理の負荷が高い
- プロトコル処理の多くをHBAやFCスイッチなどのハードウェアに委ね、サーバのCPUリソースを多く消費しない。TCP/IPのプロトコル処理は、基本的にはサーバやクライアントのCPUリソースを使用している
また、FCスイッチを使用した大規模ネットワーク構成だけでなく、ポイント・ツー・ポイントやループといったトポロジにも対応し、企業向けストレージ内部のHDD接続インターフェイスとしても広く採用されている。
Fibre Channelの普及により、ストレージの共有や統合という考え方はより一般化した。それまでのSCSI接続では、大型のストレージでも十数台のサーバを接続するのが限界であったが、Fibre Channelでは1台のストレージあたり100台以上のサーバを接続する、大規模なストレージ統合(ネットワーク)構成が可能となった。
さらに、Fibre ChannelプロトコルをIPネットワーク上で実現するFCIP(Fibre Channel over IP)という規格も生まれ、数100kmといった長距離間の接続も実現した(おもにストレージ間でデータを複製する災害対策構成の際に利用)。このように、Fibre ChannelはSANを牽引した重要な技術であり、現在でも企業ユーザーのストレージに対する多様な要件を満たしている。
(次ページ、「より手軽なSANを提供するiSCSI」に続く)

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