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ゼロからはじめるバックアップ入門 第7回

電電公社世田谷ケーブル火災や阪神淡路大震災の教訓による対策とは?

災害対策のためのバックアップを知ろう

2010年07月15日 09時00分更新

文● 伊藤玄蕃

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災害時のシステム障害対策として、従来はデータをバックアップしたテープを遠隔地に保管する方法が主流だった。しかし、最近のネットワークのコスト低下により、新しい遠隔バックアップの技法が利用されるようになった。今回は、これらの遠隔バックアップについて説明する。

 近年、企業の事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)への関心が高まり、その中でコンピュータシステムの災害復旧(Disaster Recovery:DR)が注目されるようになった。日本では過去の2つの大事件が、この分野に関する教訓となっている。

 1つは、1984年11月の「電電公社世田谷ケーブル火災」である。これは、電電公社(現:NTTグループ)の世田谷電話局前の共同溝内で発生した火災により、共同溝内の通信ケーブルが損傷したため、現場近くに事務センター(今でいうデータセンター)を設置していた2つの大手都市銀行のオンラインシステムが停止した事件である。特に三菱銀行(現在の三菱東京UFJ銀行)では、全国243の店舗でCD(現金自動支払機)やATM(現金自動預け払い機)が一時的に使用できなくなり、社会問題としてマスコミにも大々的に取り上げられた

世田谷電話局で発生したケーブル火災(NTT東日本のWebページより)

 もう1つは、1995年1月の阪神淡路大震災である。神戸市内を中心として建物の被害は甚大で、この地域に本社やデータセンターのあった企業の中には、コンピュータシステムを一瞬にして失ったところもある。ある会社では、ディスク装置をはじめとするマシンルーム内のすべての装置が振動により固定位置から外れて損傷するという被害に遭い、唯一残っていたバックアップテープからシステムを復旧するという事態になった

 企業活動や社会生活を支えるインフラとして情報システムの重要性は年々高まるばかりである。そのため、情報システムが災害でダメージを負うような事態を想定して、どのようにして迅速に復旧させるのかというDRの計画や準備もシステム管理者の重要な課題となっている。

バックアップ媒体の遠隔保管

 事務処理がコンピュータ化される前から、災害対策は行なわれていた。いわゆる「帳票」、すなわち商取引の内容を記録する会計帳簿や伝票類などの紙媒体を、カーボンコピーでリアルタイムに複写したり、マイクロフィルムや青焼きで定期的に複写したりして、遠隔地の事務所や倉庫に保管するという方法であった。この手法は、現在でも手書きの設計図面などで使われている。

 事務処理がコンピュータ化されるにつれ、従来の紙の帳票はデジタルデータに置き換えられ、デジタルデータを作成し保存するコンピュータシステム全体まで含めた、災害対策が必要とされるようになった。デジタルデータの災害対策のもっとも古典的な技法は、データをバックアップした媒体(メディア)を、データセンターと同時に被災しない程度に離れた位置にある事務所や倉庫に搬送して保存するというものである(図1)。

図1 バックアップテープを遠隔拠点に搬送し保管する

 当初は、まずデータセンター内に保管するバックアップセット(ローカル保管用セット)を磁気テープに退避し、次にローカル保管用セットから遠隔保存用の別の磁気テープセット(リモート保管用セット)を複製していた。しかし、これでは手間や処理時間がかかるため、ローカル保管用セットとリモート保管用セットを同時に作成するバックアップシステムが実用化された。

 初期コストおよびランニングコストが安いというメリットがあるため、現在でもバックアップ媒体の遠隔保管を行なっている企業は多い。ただし、以下のデメリットもある。

  1. 搬送中のテープの盗難や紛失など、情報漏えいのリスクがある。
  2. バックアップしてテープを搬送するサイクルが、もっともひんぱんな場合でもおおむね日次なので、RPO(目標復旧時点)は最小で24時間となる。つまり、リカバリしても直近の24時間か、それ以上のデータを失う。
  3. 災害時の最悪のケースでは、OSやアプリケーションなどのシステム領域と、ユーザーデータ領域の両方をテープからリカバリしなければならず、RTO(目標復旧時間)も大きくなる。また、保管場所からテープを取り寄せるための時間も加味する必要がある。

 1の問題は、バックアップ時に暗号化処理を施すといった対策があるが、2と3には有効な対策はない。

(次ページ、「バックアップセンターの利用」に続く)


 

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