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図で解剖!スイッチ&ルータ 第2回

家庭向け製品との違いを知ろう

高価な企業向けスイッチはここがすごい!

2009年07月30日 09時00分更新

文● 伊藤玄蕃

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LANの障害とスイッチの対策

 受発注や在庫管理といった企業の基幹業務は、規模が大きいほどコンピュータシステムへの依存度が高くなっている。そのコンピュータ同士を接続するLANは、もはや企業活動の死命を制するほど重要なインフラとなっている。そこで、LANの障害を未然に防止したり、障害が発生しても自律的に回復する機能が重要となる。

 こうした障害対策には、機器や経路の冗長化が用いられる。これは通常使用する機器や経路のほかに代替用の機器や経路をあらかじめ準備しておき、通常時の構成で障害が発生したら、速やかに代替手段に切り替える、という手法だ。

 LANの障害は大きくスイッチやその他の機器の故障、そしてスイッチやその他の機器との間の物理的あるいは論理的なリンク障害に分けられる。

 前者のスイッチ自体の障害対策に関しては、単一のエンクロージャに、複数のモジュールを差し込むシャーシ型製品を導入するのが一般的であった。シャーシ型スイッチでは、単一のモジュールが障害を起こしても、他のモジュールに引き継ぐ機能を持っている。また、壊れやすいモーター部品を持った電源やファンなども二重化されているため、これらを導入すればLANが停止する可能性は非常に小さくなる。ただし、導入コストがかかるため、最近ではスタック接続することで、シャーシ型スイッチと同じような信頼性を実現するボックス型製品も増えている。

スパニングツリーで冗長性の確保

 一方、ケーブルの切断やコネクタの接触不良などの物理的なリンクダウン、ブロードキャストストーム※5などによる論理的なリンクダウンは、LANではつねに起こる可能性がある。そこで、企業向けのスイッチには、これらのリンク障害を未然に防止したり、障害を検知して自動的に代替経路に切り替えたりする機能が備わっている。

※5:ブロードキャストストーム Ethernetでループ状の経路にブロードキャストフレームが流れると、このフレームが永久に転送され続けて通常の通信ができなくなる。この状態をブロードキャストストームという。

 Ethernetの仕様では、2台のスイッチ間を並行する2本以上のケーブルで接続したり、3台のスイッチ間を三角形状に接続したりすることは禁止されている。あるスイッチと別のスイッチの間に複数の経路があると、ブロードキャストストームが生じて、LANの機能が停止してしまうからだ。しかし、このようなループ構成は、配線ミスなどにより簡単に起こりうる。そこで、ループ構成が生じてもフレームの永久ループを防止する「スパニングツリープロトコル(STP:Spanning Tree Protocol)」が登場した。STPはIEEE802.1Dとして標準化されている。

 STPを利用すれば、スイッチ同士が通信することにより自動的にループを検知し、ループを構成する経路のうち特定区間を無効にしてループを解消する。このとき、無効にされなかった経路が通常経路となり、Ethernetのフレームはこちらにだけ流される。一方、無効になった経路は代替経路となり、通常時には使用されない。また、ケーブルの切断などの障害が発生して通常時の経路にEthernetフレームを流せなくなると、代替経路を復活させ、そちらにEthernetフレームを流すことで通信を継続できる(図5)。

*****[image]zu_05.png*****

図5 経路を冗長化するスパニングツリー

 最近では、ループの防止よりもむしろ、冗長性の確保を主目的にしてSTPが使われる。つまり、意図的に二重三重のループをLAN内に作っておき、通常時はSTPによりループを解消。障害時には自動的に代替経路が作成されることを期待するという狙いだ。ただし、障害が発生してから代替経路へ切り替わるまでに30~50秒の時間がかかる。

 そのため、シスコシステムズの「UplinkFast」やアライドテレシスの「EPSR(Ethernet Protected Switched Ring)」など、高速な切り替えを行なうSTPのようなレイヤ2の冗長化プロトコルを、各社が独自に実装している。そのため、同一のベンダーの製品で揃えるのであれば、利用する価値も高い。また標準規格としては、代替経路へ数秒で切り替わる「RSTP(Rapid STP)」が考案されており、すでに多くのスイッチに実装されている。

 さらに、STPはスイッチやVLANの概念が登場する以前の、ブリッジに対する仕様として策定されたため、VLANには対応していない。このため、VLAN単位にループを阻止でき、1つのポートが複数のVLANに所属している場合でもVLANごとに異なる処理が可能な「PVST+(Per VLAN Spanning Tree Plus)」や「MST(Multiple Spanning Tree)」などの機能も登場している。

(次ページ、「リンクアグリゲーションで帯域拡大と冗長性の確保」に続く)


 

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