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物理層の役割と基本
Ethernetといえば、データリンク層の制御技術であるCSMA/CDがテーマとしてよく取り上げられる。しかし、Ethernetを支えているのは、その下位の物理層である。物理層のもっとも基本的な機能は、0と1で表わされたデータを、電気信号に変換し、ケーブルに流すことである。
単純に考えると、データが1なら1V(ボルト)、0では0Vとし、通信速度を上げたければ電気信号の変化(周波数)を高速にすればよさそうだ。たとえば、1秒間に1000万(10M)回の信号変化があれば(これが周波数10MHz)、10Mbps(1000万bps)の信号が送れることになる。これを100倍の1GHz(1000MHz)にすれば、1Gbps(1000Mbps)となる計算だ。
ただし、この方法には大きく2つの問題がある。1つ目の問題は、材質などの特性により、ケーブルに流せる信号の周波数には上限がある点だ。たとえば、市販製品の中で最大周波数がもっとも高いのはカテゴリ7のケーブルだが、それでも600MHzに過ぎない。これでは、上記の単純計算では600Mbpsまでしか出せないことになる。2つ目の問題は、同じ信号が続いた場合、信号の区切りがわかりにくい点だ。たとえば、データ1を連続して送る場合、1Vが連続することになり、実際に何回続いたのか判別することが難しくなってしまう。また、電気信号にエラーが生じた場合の検出方法なども必要となってくる。
こうした問題を解決するための工夫の1つが、「符号化技術」である。詳しくは後述するが、たとえば10BASE-Tでは「マンチェスタ符号化」を使い、データ0を「10」、データ1を「01」に置き換えることで同じ値の連続を防ぐ。また、1000BASE-Tでは信号の電圧を5段階に区切ることで、1Hzあたりの情報量を増やしている。Ethernetの高速化とはこうした技術の積み重ねなのである。
10MbpsのEthernet
それでは、10MbpsのEthernetに用いられている伝送技術から説明を始めよう。10BASE5/2/-Tはそれぞれ接続に用いるケーブルやコネクタの形状など物理的な配線部分は異なるが、実装されている物理層の機能は同一のモデルである(図1)。
歴史的には同軸ケーブルを使った10BASE5がオリジナルのEthernetで、10BASE2、10BASE-Tと進化してきた。これら10MbpsのEthernetでは、データリンク層の一部である「MAC副層」において送信するデータが作られると、前述のマンチェスタ符号処理によってデータビットを送信用のシンボルに変換する(図2)。送信データが「1」なら「0,1」、送信データが「0」なら「1,0」となる仕組みだ。これを電気信号のパルスに変換すると、データを1ビット送ると必ず電圧の変化するポイントができる(図2の①)。このように、マンチェスタ符号処理で1ビットをわざわざ2ビットに変換しているのは、この電気信号の変化を作るためだ。これがデジタル伝送のクロックとなり、1ビット単位で正しくデータを受信する仕組みになるのである。
しかし、1ビットを2ビット化するので、送信データの伝送速度10Mbpsを実現するためには、2倍の20Mbpsの伝送レートで処理しなければならない。また「より対線」を使う10BASE-Tでは、使用するケーブルの最大周波数にも注意を払う必要がある。
マンチェスタ符号処理の結果生成されるパルスは、図2の②に見られるように送信データが「0」または「1」が連続した場合に周波数成分がもっとも高くなる。データ1ビットぶんの時間100nsで一周期なので、周波数に変換すると10MHzの周波数成分だ。つまり10MHzの周波数を送信できるUTPケーブルが必要となる。
10BASE-Tで使うUTPのカテゴリに照らし合わせると、カテゴリ2は最高周波数が1MHz、カテゴリ3は16MHzである。このことから10BASE-Tではカテゴリ3以上のケーブルを使わなければならないことがわかる。
(次ページ、「符号化技術を変更した100BASE」に続く)
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