文字に頼らず思考を結びつける
井口氏は、単なるプロトタイプではなく、セカイカメラをビジネスとして展開しようとしている。一方で、インターネットらしいオープンな態度も必要だと指摘する。
オープン/コラボレーションを中心に展開しなければビジネスとして厳しいのではないか。エコシステムを一緒に作っていく発想でなければ、世界市場では生き残っていけない。そのため、マッシュアップを前提にパートナーを募っていく(井口氏)
例えばリアルタイムのコミュニケーションとして、TwitterやSkypeと組み合わせると、こんなモノが作れるかもしれない。
セカイカメラとSkypeを備えた自動販売機を作ったら、コーヒーブレイクをとっている人間同士がひと息つく時間を共有できるかもしれない。東京と大阪、札幌などのビジネス街にある自販機で世間話ができたら、そこには今までにないコミュニケーションが生まれているはずだ(井口氏)
何とも面白い世界を描けるセカイカメラだが、ここで筆者は以前、本連載で紹介した、カヤックの柳澤大輔氏の言葉を思い出す(関連記事)。いわく、「しばらくウェブの世界では、検索にも発信にもテキスト力が問われる」。つまり当分はインターネットで情報を探すにも伝えるにも、文字情報がカギとなるという考え方だ。
このテキスト主体の情報活動を、セカイカメラは変えるかもしれない。
ウェブがレイヤーとして重ねられた拡張現実の世界では、自分がどこに身を置き、何を見たいかによって情報を検索・取得できるからだ。これは文字情報を介さなくても実現できる。
テキストに依存しない情報活動は、井口氏がセカイカメラの開発背景としてあげた「見たままのアイデアを共有する」「人間同士の思考を直接結びつける」というゴールに近づく方向性だ。現実世界に隠されていたり、新たに発生する場所の意味・意義を可視化するツールとしても楽しめそうだ。
筆者紹介──松村太郎
ジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性に付いて探求している。近著に「できるポケット+ iPhoto & iMovieで写真と動画を見る・遊ぶ・共有する本 iLife'08対応」(インプレスジャパン刊)。自身のブログはTAROSITE.NET。
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