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松村太郎の「デジタルとアナログの間」 第5回

松村太郎の「デジタルとアナログの間」

アニメの原点に戻る──「崖の上のポニョ」と奥井氏

2008年12月13日 11時00分更新

文● 松村太郎

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「崖の上のポニョ」は、宮崎 駿監督が原作・脚本を手がけた最新作。崖の上の一軒家に住む少年・宗介はある日、海辺でさかなの子・ポニョと出会う奥井 敦氏は映像演出を担当する。以上4点は「崖の上のポニョ」の導入部に使われたクラゲのシーンだ (c)2008 二馬力.GNDHDDT


ゲスト●スタジオジブリ 映像部 技術部長 奥井 敦氏

1963 年島根県生まれ。1981年に旭プロダクションに入社。「ダーティペア(劇場版)」(1987年)を皮切りに、多くの作品で撮影監督を務め、「紅の豚」(1992年)、「海がきこえる」(1993年)の撮影監督としてジブリ作品に参加し、1993年のジブリ撮影部発足と同時に移籍。以後、「崖の上のポニョ」(2008年)までのほとんどの作品で撮影監督または映像演出を担当している

スタジオジブリ http://www.ghibli.jp/




アニメーションの原点

 描写の精細さや写実的な表現を追求したアニメーション作品が多い昨今、映画「崖の上のポニョ」はそれらとはまったく違った作風と方向性を持つ作品だ。


奥井氏 人の手で絵を動かすのがアニメーションの原点。今回は一度、アニメーターがすべてを動かす世界に立ち戻ろう、と。


 こうしたコンセプトのもと、「崖の上のポニョ」は制作されたという。



映像演出という仕事

奥井氏 やはり印象に残っているのは導入部のクラゲのシーン。豊潤な海を表現して、ポニョの世界に観客を引き込む部分です。映画の中では冒頭にあたりますが、最初に仕上がったシーンではなかったし、約17万枚に及んだ原画の多くをここで使いました。フジモトがクラゲを発生させているシーンでは、クラゲの幼生が散っている様子や、細かな微生物まで表現しています。


 「崖の上のポニョ」で映像演出を担当した奥井敦氏はこのように振り返る。奥井氏は1993年、ジブリ撮影部発足と同時に旭プロダクションから移籍して、「崖の上のポニョ」(2008年)までのほとんどの作品で撮影監督または映像演出を担当している人物だ。ところで、映像演出とはどのような仕事なのだろうか。


奥井氏 映像演出は、美術が描いた背景の上に、アニメーターが作画したキャラクターを合成して映像として仕上げるのが主な仕事です。現在、キャラクターも背景も、デジタルデータ化して作業します。アニメーターや美術担当者は、デジタル的な処理について詳しくありません。そのため、原画や背景の作成から、デジタルデータ化、編集までの全体を把握して、作業が無駄なくスムーズに進むよう調整することも映像演出の仕事ですね。


 例えば、キャラクターが移動するようなシーンの背景は、その移動範囲を1枚で描いておかなくてはならない。このような、素材のデジタル化やキャラクターと背景を合成する際の作業を想定して、背景や原画のサイズや描き方を指定する必要があるのだ。

 奥井氏は、「崖の上のポニョ」の制作において、ちょうどアナログ作業とデジタル作業のクロスポイントに立っていたことになる。

水中を泳ぐポニョのアニメーションを合成しているところ。ソフト上では、ポニョ、クラゲ、背景といったようにいくつかのレイヤーに分かれている。赤い長方形がフレームで、シーンに合わせてこの長方形を動かす

アニメーションの制作過程 絵コンテを基に、背景と原画(キャラクター)を描く。その原画を基に原画同士の間を埋める動画を描き、ペイントする。そして、背景とキャラクターをひとつに合成(撮影)する、というのがアニメーションの大まかな制作過程だ。

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