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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第55回

内需拡大に必要な「市場の創造」

2009年02月18日 17時30分更新

文● 池田信夫/経済学者

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政府の役割は「成長産業の育成」ではない

 この危機は、どこまで続くのだろうか。多くのエコノミストは、日本の今年1~3月期のGDPはさらに落ち込むと予想している。年度末の決算期には、資産や雇用の整理が進められるからだ。政府や日銀は、これまでいろいろな財政・金融政策を出しているが、経済の悪化には歯止めがかからない。

 景気対策というのは、景気循環による一時的な不均衡を補正するもので、経済が自律的に回復するまでの「時間稼ぎ」である。今回の落ち込みの原因は、グローバルな不均衡が均衡に向かう動きなので、いくら時間を稼いでも止まらない。根本的な原因は、日本がいまだに新興国と同様の過剰貯蓄の構造を是正できないため、慢性的に投資が不足していることだ。その原因には諸説あるが、投資というのはリスクを取ってリターンを得ることだから、日本人がリスク回避的であることが原因と考えられる。

 これを打開するために、投資を促進して「内需拡大」することが必要だという議論が、政府にも出てきた。麻生内閣は3月に内需の中心となる産業を育成する「成長戦略」を発表する方針だ。しかし政府が民間より正しく成長産業を選ぶことができるのだろうか。1980年代から進められてきた通産省の「大型プロジェクト」などの産業政策は、ほとんど失敗だったというのが専門家の評価だ。民間よりさらにリスク回避的な官庁が、適切なプロジェクトを選べるはずがない。

 次世代の成長産業は、市場が選ぶしかない。それは新興国の追い上げによって競争力を失いつつある製造業ではなく、付加価値が高く貿易の影響を受けにくいサービス業だろう。IT産業でいえば、固定通信サービスは成熟しているが、無線ブロードバンドには大きな可能性がある。こうした新しい市場が成長するためには、政府が特定の産業を「育成」するのではなく、周波数オークションのような市場の創造によって新規参入を促進する必要がある。

 場当たり的な景気対策をいくら繰り返しても長期停滞が止まらないことは、「失われた10年」の貴重な教訓だ。政府は今度こそ、長期的な視野から日本の潜在成長力を高める政策をとる必要がある。そのために必要なのは何十兆円もの予算ではなく、労働や資本が生産性の高い分野へ移動するための規制改革である。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に 「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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