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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第62回

「史上最大の景気対策」で不況から脱出できるのか

2009年04月08日 13時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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財政政策による「景気刺激」という神話

 4月6日、政府は10兆円規模の補正予算を組む方針を発表した。これは財政支出をともなう「真水」の規模としては史上最大で、「世界一の借金王」を自認した小渕内閣の補正予算を上回る。原案では、非正規労働者の安全網、中小企業の資金繰り対策、太陽光発電、介護・医療などの対策が挙がっているが、そういう政策に10兆円が必要なのかどうかはわからない。

 本来税金を使うときは、それが民間の資金を使うより有効なのか、そしてどういう用途に使うことが最適なのかを検討しなければならない。当初予算では、財務省の査定で支出の必要性の根拠がきびしく問われる。ところが補正予算では、このように何に使うかよりも先にいくら使うかが出てくる。これは政府が有効需要を追加して「GDPギャップ」を埋めるためとされているが、本当に財政政策でギャップは埋まるのだろうか。

景気対策と実質GDP

景気対策と実質GDP(内閣府調べ)

 上の図は1998年以降の景気対策(赤線)と実質GDP(四半期速報値)を描いたものだが、景気対策とGDPに相関はみられない。特に大きな財政出動は、小渕内閣が1998年11月に行なった7.6兆円(真水)にのぼる補正予算(左から2番目)だが、そのあとGDPは下がっている。

 99年11月の補正予算(6.5兆円)のあとはGDPが上がったが、2000年10月(3.9兆円)のあとは下がった。要するに財政支出とGDPの関係はほとんどランダムで明確な因果関係はなく、財政支出の何倍も所得が増えるという「乗数効果」も見られない。

 財政支出で有効需要が増えるというケインズの理論は、今日では疑問とされている。1930年代の大恐慌から、ルーズベルト大統領のニューディールの財政政策で脱出したというのは、歴史的事実として誤りである。ルーズベルトは均衡財政主義者で、実際には財政支出はそれほど増やしていないし、その効果もみられなかった。アメリカの失業率は、ニューディールの続いた1930年代後半も10%以上だった。

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