自作ミキサー大成功の巻
「あ、アレ持ってきましたよ」
船田さんはカバンの中から怪しいハコを取り出し、テーブルの上に置いた。半透明のケースに小さな基板が入っていて、赤や青のケーブルがびろーんと伸びている。
昨今の情勢から言って、われわれのように目つきの悪い中年男が、このようなものを持って新宿界隈をうろつこうものなら、
「ちょっと待てコラ!」
と、警察官に呼び止められるのは必至である。なんだか小型の爆弾に見えなくもないし、神経質そうな船田さんは爆弾魔のようでもあるし、私はボヤッキーの横にいるトンズラーのようだし、まったく何もかもが怪しくて困るのだが、半透明のハコは平和利用しかできないミキサーであった。
DS-10を一人でプレイするなら本体にイヤホンでオーケーだが、2人でそれをやっては互いの音が聴こえない。無線で同期すると言っても、オーディオ出力までストリーミングするわけではないから、合奏するには内蔵スピーカーの音を出してドンツクやるしかないわけだが、すると、
「おらーっ、兄ちゃん、他のお客さんの迷惑も考えろや」
というような方々をはじめとして、善良な一般市民の怒りをかってしまう。
こういう場合はミキサーでDS-10の音をまとめ、互いのイヤホンに出力すると、周囲に迷惑をかけることなく内輪で合奏できるわけだ。
問題は都合のいいミキサーが市販品に見当たらないこと。モバイル環境でジャムるための機材というのは、まだ世の中に存在しない。携帯できるグルーヴィーなシンセの精神的軽さに見合うものはないのだ。
現状、もっとも軽くて安いミキシング手段はY字ケーブルだが、接続機器が増えるとタコ足配線になり、音量が落ちて使えない。電池駆動のモバイルミキサーは、ちょっとコーヒー屋のテーブルには大きい。入力端子はRCAピンやPHONEだから、DS Liteのステレオミニに変換するケーブルも要る。
だったらミニプラグ付きの小さいミキサーを作ればいいじゃん。ということになって船田さんがこしらえてきたのが、この時限発火装置のようなものだったのだ。
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