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キャリア・ピックアップ 第49回

ニコンD3を作った“コンセプター”の隠れた手腕

2008年06月27日 04時00分更新

文● 鮎川哲也(大空出版)

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 (株)ニコンのデジタル一眼レフカメラ「D3」が「カメラグランプリ2008『大賞』」を受賞した。プロフェッショナルフォトグラファーや写真愛好家、一般ユーザまで、幅広い層に支持されている「D3」は、どのようなコンセプトで作られたのか。「D3」のコンセプトを作り、製品化に至るまでを取りまとめたニコンの川路浩平さんに、コンセプターという仕事で重要なことや、必要なスキルについて聞いた。

今年から設けられた一般ユーザの投票で選ぶ「あなたが選ぶベストカメラ大賞」にも選ばれ、カメラグランプリ2008『大賞』とともにダブル受賞を果たしたニコンのデジタル一眼レフカメラ「D3」

フラッグシップモデルのコンセプト策定ノウハウ

 「D3」は、ニコンの一眼レフカメラのフラッグシップモデルだ。フラッグシップモデルは、メーカーの最先端技術の結晶として見られるため、ユーザの評価も厳しい。「最高」であることが当たり前に求められるのだ。フラッグシップモデルのコンセプトや機能、スペックなどは、どのように定めていくべきなのか。

川路浩平さん               株式会社ニコン 映像カンパニー 第一マーケティング課 副主幹

「弊社のフラッグシップモデルのコアターゲットは、プロフェッショナルフォトグラファーになります。現代のプロフェッショナルフォトグラファー、特にフリーの方は、多くの場合、スポーツや報道の撮影をこなす一方で、スタジオでの商品やポートレートの撮影もするなど、非常に広い分野の撮影を一人でこなさねばなりません。しかも、プロは緊急時を考慮して同じ機種を数台持ているものなので、カメラ台数が増えてしまい、費用が大変です。そこで、私たちは『1機種で、できるだけ広い分野の写真を最高品質で撮れるカメラ』を作りたいと考えました。『プロの仕事のほとんどの分野で最高のパフォーマンスを発揮するカメラ』という『D3』のコンセプトができたのです」

 プロが仕事で使うとなれば当然、画質のみならず、壊れないことや使いやすさも求められる。

「これまでニコンのカメラを使っていたユーザはもちろん、他社から乗り換えるユーザにとっても違和感なく使える機能や操作性も大切です。これらをすべて合わせて、フラッグシップモデルにふさわしい高い条件を設定するのが、私の『D3』開発の第一歩でした」

 「D3」の開発は部分要素によっては2003年ごろから始まり、ライバル社との差別化や採用すべき技術、既存機種ユーザからの意見や要望などから、コンセプトを具体化させていったそうだ。この段階で一番よくないのは、調査検討時点での売れている機種の特徴やユーザの意見を、そのまま取り入れたものだと川路さんは語る。

「メーカーは、その製品の専門家として有用性の高い新提案を製品に入れていかなければ、新しい商品を世に出す意味がないと思っています。『D3』はフラッグシップモデルとして、できるだけ広範囲の仕事に対応すると同時に、ユーザに『新たな表現方法』と『新たな撮影領域の開拓』を提案できるものでなくてはなりませんでした。そのためには、市場要望の実現や解決はもちろん、検討時点での技術的展望や想定されるユーザの使用シーンに対して、汎用性が高いことも大切になります。そこでD3に、FXフォーマット、有効画素数12.1メガピクセル、ISO6400、9FPSという基幹スペックを持たせました」

指が自然にかかり、回しやすいように傾斜を調整したコマンドダイヤル。高機能だけでなく、このような細部へのこだわりが、ユーザの高評価を生む

 また、それらの数字スペックの特徴だけでなく、指が自然にかかるようにコマンドダイヤルを微妙に傾けるなど、細かい部分にも配慮してあるという。このような多くの地味な細部にも、ユーザが使って、「ああ、なるほど使いやすくなったね」「よく考えてあるね」と思えるような改善を多数盛り込むことで、使いやすさへの潜在的な要望にも答えていくことが大切なのだ。

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