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西田 宗千佳のBeyond the Mobile 第3回

挑戦的モバイル、HP 2133の実力はいかに?

2008年06月05日 11時00分更新

文● 西田 宗千佳

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CPU性能の低さが“発熱”につながる
OSの選定にも疑問アリ

 スタイルも良く、操作性も申し分なく、しかも低価格。文句なしの製品……といいたいところだが、使ってみると非常に厳しい現実にも直面する。それは発熱と速度だ。

 HP MiniのCPUは、台湾VIA Technologies社の「C7-M」。性能はさして高くないが、CPUパッケージのサイズが小さく価格が安いため、小型PCに向くCPUといわれている。

 だが残念ながら、OSにWindows Vistaを採用し、高負荷なウェブサービスを多用する「いまどきのPC的な用途には、かなり厳しいと言わざるを得ない。

 さまざまな作業を“行なえないほど遅い”、ということではない。起動時などにもたつきを感じることはあるが、ウェブサービスとOfficeスイートの利用くらいならば、速度的に厳しいと感じることはない。むしろ問題なのは、それらの仕事をすると、すぐにCPU負荷が高まってしまうことにある。

 例えば、重いウェブサービスの代表格である「ニコニコ動画の再生中には、CPU負荷は常に80%を超え、90%から100%の間を行き来する。字幕が多い時やH.264の映像が再生されている時などは、ほぼ100%に振り切った状態となり、時にはコマ落ちもみられる。また、iTunesでAAC形式の音楽を再生する時にも、30%から40%のCPU負荷となった。

ニコニコ動画(左)とiTunesを再生時に、それぞれCPU負荷を確認した。ニコニコ動画のグラフで、CPUパワーがちょっと上がっているように見える部分は、いわゆる「弾幕」のところだ

 ちなみに、これらの処理を1.2GHzのCore 2 Duoプロセッサーを搭載した“今時のモバイルノート”で行なった場合、それぞれの負荷は40%、10%以下であった。

 ここで問題となるのは、負荷が高い分だけ動作速度が遅くなることではない。問題なのは、負荷が高い分だけ消費電力が高くなり、その分発熱が多くなることだ。

 HP Miniは動作中とにかく熱い。アイドル時と高負荷時、双方で発熱を計ったが、最低でも37度を超えており、手のひらにじっとりと汗をかいて不快だ。本体が金属製で熱の伝わりがいい、ということも関係しているのだろう。CPU性能に余裕がなく、常に一定以上のCPU負荷がかかっている結果、不快感を感じないレベルまでなかなか発熱量が下がらず、それが不快感につながっている。実際、本体から熱を感じないのは起動直後と、本当になにもせず放置した時くらい、という印象を受けた。

各部の温度  放射温度計による測定。外気温は23℃
パームレスト左側 底面の最大発熱部 排気口
アイドル時(省電力ON) 約37度 約37度 約43度
フルパワー時(省電力OFF) 約45度 約43度 約48度

 これだけCPU負荷が高い理由のひとつは、OSにVistaを使っていることにあるだろう。残念ながら、今回は試用できる期間が短く、OSを入れ替えてのテストは行なえなかったが、OSをWindows XPに変更すれば、ある程度アイドル時の発熱を抑えられると予想できる。場合によっては、クロック周波数をコントロールするソフトを導入し、あえてクロックを落として使う、という解決策もあるだろう。

 誤解のないように伝えておきたいが、Vistaは「十分なCPU性能とメモリー容量」があれば不快なOSではない。電力管理に関する機能が向上していることから、本来はモバイルノートに向いたOSである。HP Miniの場合も、スリープからの復帰速度などの点で、Vistaらしい良さが見える。だが、HP MiniのようにCPU性能が低いPCでは、利点よりも欠点の方が目立ち、ふさわしいOSとは思えない。

 ここで重要になるのが、「ハイパフォーマンスモデル」のOSが、Windows Vista Businessである、という点だ。Vista Businessの場合はVistaのライセンスとともに、下位のOSを利用する「ダウングレード権」も付与されている。つまり、別途Windows XP Professionalのインストールディスクを用意すれば、別途XPのライセンスを用意しなくても、OSの入れ替えが可能だ。XP用ドライバーはHPのサイト上で公開されており、導入に問題はない。XPのライセンスの分、コストが安く済むと考えると、ハイパフォーマンスモデルは非常に「お買い得」といえる。

 HP Miniは、非常に魅力的でお買い得なPCである。ピュアモバイルとしてみれば少々重いが、操作性を考えると十分に納得できる。また、屋外への持ち出しでなく、リビングのソファーの上や寝室など、「さまざまな場所で使う家庭内モバイルPC」として使うのもおもしろい。そういった発想ができるのも、やはり「安さ」がゆえだ。

 選択のポイントは1にも2にも「発熱」だ。これが我慢できればおすすめできる。今後、VIAが先日発表した新CPU「Nano」やIntelの「Atom」など、消費電力と発熱がより低いCPUが登場して後継機に採用されることになれば、正真正銘の「名機」になりそうな予感がする。

オススメしたい人
・低価格で使い勝手のいいモバイルノートを求めている人
・パームレストの「熱さ」をあまり気にしない人
HP 2133 Mini-Note PC ハイパフォーマンスモデルの主なスペック
CPU VIA C7-M ULV(1.6GHz)
メモリー DDR2-677 2GB
グラフィックス VIA CN896チップセット内蔵
ディスプレー 8.9インチワイド 1280×768ドット
HDD 160GB
光学ドライブ 搭載せず
無線通信機能 IEEE 802.11a/b/g、Bluetooth 2.0
カードスロット Express Card/54、SDメモリーカード
インターフェース USB 2.0×2、アナログRGB出力(D-Sub 15ピン)、10/100/1000BASE-T LAN、ヘッドホン出力など
サイズ 幅255×奥行き166×高さ27.2~35.5mm
重量 約1.27kg
バッテリー駆動時間 約2.3時間(3セルバッテリー使用時)、約4.6時間(6セルバッテリー使用時)
OS Windows Vista Business
価格 7万9800円(HP Direct価格)

筆者紹介─西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。 得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)がある。


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