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トヨザキ社長が選ぶこの本くらい読みなさいよ! 第4回

人生という“冒険”をクリアしたいなら

2007年07月27日 12時00分更新

文● 豊崎由美

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仕事に追われ「最近、小説を読んでないなぁ」と感じているビジネスマンも少なくないだろう。しかし、時として小説は未来を見据える先見力を養うのに、格好の教材となりうる。『文学賞メッタ斬り!』の共著者としておなじみの「トヨザキ社長」が、ビジネスに役立つオススメの一冊を贈る。

『仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本』
著者:米光一成

人生という“冒険”をクリアしたいなら

仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本

著者:米光一成
出版社:KKベストセラーズ
価格:1260円(税込)
ISBN-13: 978-4584130070

 冒険=プロジェクト、勇者=あなた、王様=うえのひと。カバー表紙に印刷された、ファミコン時代のRPGに出てくるようなキャラクターのイラストが可愛い米光一成の『仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本』は、アイ・プロミス、必ずやIT系ビジネスマンたる勇者(あなた)の役に立ちますの。
 起業、ビジネス、ゲーム制作から、文化祭やサプライズ・パーティーのようなイベントまで、複数の人間が集まって何かひとつの目標をクリアすることを目指すプロジェクトをいかに成功に導くか。プロジェクトリーダーである勇者はいかに仲間のやる気を引きだし、上司やスポンサー、先生といった自分では冒険に出発しないものの、冒険をするための環境を用意してくれる王国(会社や学校)の偉い人を説得して、楽しく実り豊かな冒険を成就させるか。そのためのノウハウが、RPGの攻略法をなぞりながらとても楽しく具体的に示されているんです。

 まずは「冒険の地図(プロジェクトマップ)」を作るところから攻略は始まります。A4の白い紙を用意して、その中央に冒険名を書く。そして冒険名のまわりに思い浮かぶ要素を、どんどん書く。位置や分類といった細かいことは気にしない。制限時間は3分間。ひとつ思いついたら、それをもっと具体的に書けないか、考えてみる。冒険とは直接関係ないことでも、連想したものは何でも書き込んでみる。そして、冒険が始まって以降も、地図をどんどん書き換えていく。大事なのは前に書いたものを捨てないこと。新しい「冒険の地図」を書いたら、前に書いたものと見比べてみる。そうすると、冒険の様子がどんな風に変わってきたのかが一目瞭然。冒険の途中で初心を忘れそうになった時にも見返してみる。そうすると、当初のコンセプトを思い返すことができる。

 王様と敵対することなく、冒険の仲間として協力してもらうための方法、最強パーティーの作り方、仲間たちのハートのつかみ方、有意義なミーティングのあり方、冒険のスケジュールの立て方、冒険のクリアの仕方などなど。このたった120ページあまりしかない薄い本の中には、困難や問題に突き当たった時の乗り越え方が、「冒険の地図」の作り方同様、具体的かつわかりやすく簡潔な文章で提案されています。

 なかでも、わたしが感銘を受けたのはこんなくだりです。
「RPGに、勇者、魔法使い、賢者、盗賊などのさまざまな職種があり、得意分野があるように、冒険の仲間にも、それぞれ得意分野がある。もちろん不得意の分野もある。一見、欠点と思える部分は、しかし、同時に長所でもありえる。勇者は仲間をよく観察し、くるりと長所にひっくり返してあげなければならない」
 じゃあ、短所が長所に反転しやすくなるのはどんな場で、その場はどうしたら作りだせるのか。
「まず『イエスアンド』を意識することだ。相手のオファーや意見を、とにかくいったん受け止めて(イエス)、自分のアイデアをつけ加える(アンド)こと。(略)そういった『イエスアンドができる場』を作り出す」
 また、勇者はリーダーだからといって「ダメだからこうしろ」という方法の押しつけをしてはいけないともあります。
「大切なのは『どうするか』を発見するのは本人だということだ。自分でやることを、自分で発見する。そうすることで、はじめてやる気がでてくる。自分のこととして考えられる」
「自分自身で、どうすればいいのかを見つけた人は、その後でも自分で見つけるようになる」  そのとーりっ! こんな考え方ができる勇者をリーダーに戴く冒険なら、楽しくクリアできること必定でありましょう。

 また、冒険の最中にわたしたちを悩ませるのは、出題者が正解を知っている学校のテストみたいな「死んでいる問題」ではなく、たとえば「この製品の売上げを伸ばすにはどうしたらよいか?」というような、正解があらかじめ用意されていない「生きている問題」だとし、「死んでいる問題」になさられてしまってはダイナミックな冒険を楽しむことはできないと説くくだりには、思わず胸が熱くもなりました。
「冒険を攻略するときは、冒険自体が『生きている問題』だと考えること。たったひとつの正解などないと知ること。だからこそ、悩み、乗り越え、成長していける。経験を蓄えることができる。(略)山頂を目指しているけど、そこへいたるコースはいろいろなコースがある。山頂に到達しなくても、とても眺めのいい場所があることもある。そういった融通のきくところが『生きている問題』のいいところだ。たったひとつの答えを求めて、それ以外は不正解でダメだという無情な『問題』は、この世界にはほとんど存在しない。(略)だから、あきらめてはいけない」

「イエス。完成した冒険を、いちどOKだと受け止めよう。そしてアンド。『もっとやりたかった』という部分を、次の冒険活かそう。冒険も、イエスアンドの精神で続けていこう」という励ましで終わるこの本を読んで、わたしは思いました。米光さんが提案している数々の冒険攻略法は、仕事だけじゃなく何にでも適用できるんじゃないか、と。子育て、夫婦関係、先生や学級委員によるクラス作りから、果ては施政まで、ありとあらゆるプロジェクトに応用が効きそうなのです。
 というわけで大袈裟でもなんでもなく、会社の各部署に1冊は当たり前、家庭に1冊備えてもいいほど画期的かつ基本的な攻略本だと思し召せ。買って、読んで、IT系ビジネスマンたる勇者(あなた)の仕事と人生をより一層充実させてくださいまし。

豊崎 由美(とよざき ゆみ)

1961年生まれのライター。「本の雑誌」「GNIZA」などの雑誌で、書評を中心に連載を持つ。共著に『文学賞メッタ斬り!』シリーズ(PARCO出版)と『百年の誤読』(ぴあ)、書評集『そんなに読んで、どうするの?』『どれだけ読めば、気がすむの?』(アスペクト)などがある。趣味は競馬。

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