マンガやゲームのキャラクターをパロディー化して楽しむ文化は、はるか昔から脈々と受け継がれている。筆者の周りにも、子供の頃に「リアルアンパンマン」や「グロいオバQ」を描いて遊んだ経験のある知人が多い。そうした「ネタ絵」はインターネットの登場で急速に洗練が進み、誰もが驚くクオリティーの作品が生まれてきた。その典型例が、今回紹介する「朝目新聞」だ。
朝目新聞では、最盛期で1日2~300枚のネタ絵が画像掲示板に投稿されていたという。集まった膨大なネタ絵は、しばらくするとテーマ別にまとめられて「アサメグラフ」という特設コーナーに置かれる。これらの作業を行っているのは、管理人の机器猫氏ただ一人だ。
顔が見えるインターネットの第21回は、10年間も巨大サイトを一人で切り盛りしている机器猫(ちーしーまお)氏の話から、サイト運営の秘訣を探っていきたい。
朝目新聞
1日に8万5000から9万ビューを誇るネタ絵サイトの大御所。ネタ絵のギャラリーや画像掲示板だけでなく、マンガやネットカルチャー関連のニュース記事もピックアップしており、トップページは非常に長い。投稿を続けているうちにプロとして世に出た常連もいるなど、歴史とクオリティーはライバルサイトを圧倒している。
ネタ絵の巨人は偶然生まれた?
── 朝目新聞はかなり昔から運営されていますよね。
机器猫 スタートは1996~1997年くらいで、僕が学生の頃ですね。大学のゼミでウェブページを作成する課題が出てHTMLを覚えたんです。そこで、ちょっと個人でもやってみようと。最初はかなり内輪な内容で、ゼミの友人の顔写真をフォトショップでいじるとか、そういうアホな画像サイトを作っていました。その頃のネタもまだ残っていますが、いい加減消さないと(笑)。

大阪在住の机器猫氏。常連のネタ絵師さんとは実社会でも交流し、頻繁に飲んでいるという。今回は机器猫氏が行きつけの焼酎バーで語ってもらった
── 投稿サイトの色合いが出てきたのはいつ頃でしょう?
机器猫 2002年くらいですね。当時たまたま画像掲示板を見つけて、軽い気持ちで借りてみたら、投稿してくれる人が意外と多くて驚きました。それで、皆が投稿してくれた作品が流れてしまうのはもったいないと思い、保存してまとめていったら、今のようなスタイルになったという感じです。だから、特に目標があったわけではなく、本当に偶然の流れなんですよ。
── でも、その偶然の積み重ねにも何かしらの理由があると思います。朝目新聞に特別な魅力があったとか。
机器猫 う~ん。他の人が手を付けていない頃に、ジョジョのパロディーとかをやっていたので、それで見に来る人がたくさん集まってくれたのかもしれません。当時はネット上にネタ絵がほとんどなくて、リアルアンパンマンとかリアルパーマンとか、しょうもない絵を描いても1~2年間流通するような時代でしたからね。今は、ネタ絵といってもクオリティーがすごく上がっています。
── ちなみに、今の朝目新聞は机器猫さんが考える方向に進んでいますか?
机器猫 面白いネタがたくさん見られるという点ではそうですね。ただ、僕の管理が追いついていないんですよ。未掲載のイラストが1万点以上あるので、今は週イチで特集を組んで月に1000点掲載するペースを目標にしています。ただ、新しい投稿も毎月数100はあるので、ちょっとずつしか減らせていないですけどね。

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