我々が口にする前から、多くの国や場所で
多量の水が使われているという事実を知る「券売機」
エントランスから地下の会場に降りてくると足下に円形のスポットが落ちている。天井から投影された光の円の中に人が入り込むと、人の動きにあわせて、あたかも池か水たまりに足を入れたかのような水紋が現われる。同時に壁に投影された円には、人が動いた所に水墨で描いたような跡が影のように映し出され、まるで月のような形に変化する。
この作品「水円」は、「さくらスケープ」(2005年度グッドデザイン賞入賞)などのウェブサイトのディレクションなどを手がけるインタラクティブメディアデザイナーのアラカワケンスケ氏と、VJソフトの開発などを手がけてきたプログラマーの三浦 望氏、VRシステムなどの開発を手がけるソリッドレイ研究所が共同開発したもの。
床に投影された映像に触れると反応するこの映像システムのベースとなったのは、ソリッドレイ研究所のタップトークというシステムで、すでに多くのイベントや公共施設などで使われているが、今回の展示のために円形に投影するシステムを新たに開発した。
メイン会場につながる通路には、あたかも社員食堂の入り口かのように食品サンプルが並んでいる。牛丼、味噌汁、ハンバーガー……と、普段口にしている品目ばかりだ。サンプルショーケースの隣には券売機(?)が設置されている。これが冒頭で紹介した「牛丼 2000リットル」というカードを発券した「見えない水の発券機」だ。筆者がWater展にいっぺんに引き込まれたのが、“牛丼一杯に使われる水の量は?”という、見えない水(バーチャルウォーター)の消費実態を表現したこの作品だ。サンプルショーケースの食品を選んで発券機のボタンを押すと、その食品の水消費量を記した券が発行されるという仕組みだ。このシステムはケータイサイト「携帯版バーチャルウォーター」(http://v-water.jp)でも楽しむことができる。今、自分が食べているものを検索してみるのも面白いだろう。
「牛丼 2000リットル」=2リットルのペットボトル約1000本分は、牛の餌となる牧草を育てる水、牛が飲む水、米(稲)を育てる水など含めると、牛丼1杯の原材料にほぼそのぐらいの量が使われているということなのだ。牛丼に使われる水と言われると、単純に調理に必要な水くらいしか思い浮かばないものだが、実際には背後にそれだけの水が必要になのだ。佐藤氏は「牛丼を食べるために、牛肉を大量に輸入するということは、大量の水資源を他国に頼っているということ。しかも、このことは水で世界を見ることのほんの入口でした」と語っている。