危うくも美しい「水の器」
その底に写し出された美しい「雪の結晶」
メイン会場に入るとまずに目に飛び込んでくるのが、まるで遊園地のコーヒーカップのようにいくつもならべられた水の器だ。この作品は見たままの通り、佐藤 卓氏による「水の器」という作品だ。井戸のようなカップのような器に目一杯まで水が張られており、器の底には円形のディスプレーが配されて、映像が流されている。全部で12器が設置されているおり、すべてに異なるコンテンツが投影されている。いずれも興味深い映像ばかりだが、とりわけ1950年に岩波映画が制作した「雪の結晶」の一部を使用した「雪」という作品が懐かしさを誘う。
この水の器は、時間が経過しても水が濁ることはない。佐藤氏によれば「中に濾過するシステムを組み込んであって、循環させています。本来なら水が濁ってしまうのですが、それでは中の映像が見にくくなりますので」としている。こうした水を展示に使うのはなかなか手強いものだが、この水の器のように水とディスプレーが一体となったシステムなら、ほかでも需要がありそうだ。このようにアートとテクノロジーが見事にディレクションされていることで、プロダクトとしての価値が出てきているのも本展のユニークなところだろう。
不規則な自然な水の動きをアートに組み込んだ2作品
「ふるまい」は、撥水加工技術を使ったもので、デザインエンジニアリングファームのtakramによる作品。あらかじめさまざまなパターンの凹凸を付けた12枚の紙皿に撥水処理を施し、これに来場者がスポイトで水滴を垂らして、皿の表面で水滴が描く不思議なふるまいを楽しむもの。本来、目にすることが難しい、水滴の本来の躍動感を見ることができる。さらに、公式ショップでおみやげ用に販売されている「超撥水皿」は、宇宙開発で使用されているナノ技術を使った超撥水処理を施しているという。これらを開発したtakramは、田川欣哉氏らを中心とした、デザインとエンジニアリングの2つの視点を生かした多角的なアプローチを特徴とする新世代の製品・ビジネス開発会社だ。
掲載当初、takramのつづりを誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。また、展示作品「ふるまい」と、公式ショップで販売されている「超撥水皿」について、撥水加工に関する記述に誤りがありました。当該部分を修正し、お詫びいたします。(2007年10月18日)
「鹿威し」(ししおどし)は日本デザインセンターの代表取締役で武蔵野美術大学教授でもあるグラフィックデザイナー原 研哉氏による作品だ。日本庭園にある鹿威しを現代的に解釈したもので、試験管からこぼれた水は撥水処理したテーブルの上の凹凸を越えて踊り、流れて行き、また循環される。