しばしば目にする「binary(バイナリ)」という単語。大抵のエンジニアは意味こそ説明できるだろうが、文章中に出てくると何を指しているのか詰まってしまう人もいるのではないだろうか。
たとえば、以下の英文はどう訳せばいいのだろう。
NetBSD provides binary emulation for various other *nix operating systems, thusly allowing you to run non-native applications.
- NetBSD=UNIX互換OSの名称
- emulation=Macintosh用のソフトウェアをWindowsで動作させるなど、特定のハードウェア向けのソフトウェアを設計の異なるハードウェアで実行させること
*nix=“様々なUNIX”を意味するエンジニアの業界言葉
ちなみに、binaryを「リーダーズ英和辞典」(研究社)で調べると……。
- binary
- 二つの、一対の、二進法の
うーむ。辞書に出ていた意味で和訳しても、どうもピンと来ない。それもそのはず。実は、ここで使われているbinaryは、IT業界独自の意味を持つ単語だからだ。
IT業界におけるbinaryは、元々binaryの意味にある二進法から転じて、“機械だけが読めるデータ”という意味で使われている(コンピュータ処理はすべて二進法で行なわれているから)。つまり、コンピュータが扱うデータはすべてbinaryなのだが、その中で“人間が読めるように文字・記号で表わされた形式”は「text 形式」に分類される。
ややこしいことに、binaryは慣用的には“text file以外の形式”(GIF、JPEG、DOC、MPEG、WAVE、EXEなど)として使われ、さらに狭義的には“実行可能形式”や“ソフトウェア”のことを指すことがある。だから、IT関係の英文に出てくるbinaryが何を指しているのかは、文脈から推理しないと分からないのだ。
ところで、冒頭の英文はbinaryをソフトウェアの意味で使っているので、和訳すると以下のようになる。
「NetBSDは、ほかのさまざまなUNIXライクOSのためにソフトウェア(binary)のエミュレーションを提供しています。したがって、(あなたは)本来NetBSD用ではないアプリケーションも実行できます」
技術書やマニュアルにbinaryという言葉が出てきた場合、安易にニュアンスで読んでいると、思わぬトラブルに発展することもありえる。面倒ではあっても、何を指しているのかを文脈から正確に理解するように心がけよう。
Illustration:Aiko Yamamoto
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