2023年8月前半は、半導体の製造拠点を世界的に分散化する動きが目立った。
日本の経済産業省が8月4日に開いた産業構造審議会では、2024年度に重点を置く経済産業政策の概要が示され、引き続き「半導体製造基盤整備」が挙がった。
8日には、半導体受託生産の分野の世界最大手とされる台湾のTSMCが、ドイツに工場を建設する計画を発表した。
米国のバイデン大統領は9日、半導体やAIを含むハイテク分野で中国向けの投資を規制する大統領令に署名した。
コロナ禍やウクライナ戦争をきっかけに、必要な時に必要な半導体が手に入らないリスクが浮き彫りになった。
半導体の製造拠点の分散化は、世界各地で紛争や戦争のリスクが高まる中で、自国に製造拠点を設け、必要なときに必要なだけ半導体を確保できる体制を整備する動きと理解できる。
新規の工場進出はできない
米国の中国向け投資規制は、半導体、量子コンピューター、人工知能などに関連する開発プロジェクトに対し、米国のベンチャーキャピタルなどの資金が投じられることを禁じるものだ。
先端分野の開発プロジェクトへの投資も禁止の対象とされる。
これまで米国は、先端半導体や半導体の製造装置など、関連する製品の輸出禁止措置を段階的に進めてきた。
すでに製品そのものは輸出規制の対象だったが、今回は資金にまで規制の対象が拡大されたことになる。
米国人や米国企業は、先端半導体の開発を目指す中国企業に投資はできない。さらに、プロジェクトも対象とされていることから、中国に工場を立ち上げたり、中国以外の地域に中国企業と一緒に工場を立ち上げたりといった投資もできないことになる。
ただ、米国企業が関係する既存の工場まですぐに閉鎖するよう求めているわけではなく、あくまで新規の投資が禁止される内容だ。
中国は半導体の材料輸出を規制
一方、中国は8月1日から、ガリウムとゲルマニウムの輸出管理を強化している。ガリウムとゲルマニウムや関連製品は輸出許可がなければ輸出ができなくなった。
ガリウムとゲルマニウムは半導体の材料となるレアアースだ。無許可での輸出は、刑事罰の対象にもなる。中国政府のこうした方針は、米国が導入した一連の中国向け輸出規制への明確な対抗措置だ。
米国経済の停滞につながらないか
米国のメディアを確認すると、今回の「投資禁止」措置について、米国政府は自国の安全保障を強調している。
米国で開発された技術や知識が中国に移転したり、先端分野の開発を支援する資金が中国に投じられたりすると、間接的に中国軍の強化につながり、最終的には米国の安全保障に影響しうるという理屈だ。
こうした規制に対しては、技術や知識を自国に囲い込み、資金の移転も禁止することで、結果として米国の経済やイノベーションの停滞を招かないのかという批判がある。
経済の停滞が懸念される要因のひとつとして、半導体には様々な種類がある点が挙げられる。
2021年の半導体メーカーのトップ10を見ると、この3国の企業がほぼ独占状態だ。
たしかに、先端の半導体分野では台湾、韓国、米国が現時点で大きくリードしている。
しかし、ほとんどが海外企業の中国工場ではあるものの、国単位でみると、中国の半導体の製造能力は、すでに台湾、韓国に次ぎ、中国が3位につけているという統計もある。
世界規模で企業活動が円滑に回っていくには、先端の半導体だけでは成り立たない。
むしろ、日常生活に欠かせない家電などの部品となる、比較的簡単な計算に使われる低機能の半導体も重要だ。
低機能で安価で、大量生産される半導体の製造は、むしろ米国よりも中国の方が得意なのではないかとも考えられる。
こうした製品の製造が停滞すれば、その影響が米国経済に跳ね返ってくる可能性は十分にあるだろう。
半導体製造は自国だけでは成り立たない
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