UnsplashのSolen Feyissaが撮影した写真
動画投稿アプリTikTokの利用を禁止する動きが広がっている。
ロイターの報道によれば、米連邦捜査局(FBI)の長官が2023年3月8日、米議会の公聴会で、中国政府はTikTokを使って、アメリカのユーザーデータをコントロールすることが可能だと述べた。
この動きに先立ち、米連邦議会下院の外交委員会は3月1日に、TikTokの利用を大統領の権限で禁止できる法案を可決している。
さらに、米国、欧州などの政府はすでに職員に対し、公用のスマートフォンにTikTokのインストールを禁止する措置を打ち出している。こうした動きに同調したかどうかは不明だが、日本政府も、機密情報を扱う公用スマホでのTikTokを含むSNSの利用を禁じている。
日常的にTikTokを閲覧したり、投稿したりしている人たちにとって、TikTokはどれほどの脅威となりえるのだろうか。
TikTokは、8億3000万人が使っている
まず、あらためてTikTokについておさらいしておきたい。
筆者としても、原稿を書く際の必要からインストールして使ってみたことはあるが、ほとんどなじみがない。
2016年にサービスが始まったTikTokは、数秒~1分程度の短い動画を投稿し、共有できるSNSで、中国のバイトダンス社が運営している。
さまざまな統計を公開しているSTATISTAの推計によれば、2023年時点のTikTokユーザー数は約8億3430万人にのぼる。
国別の統計では、日本には2023年1月の時点で2070万人のユーザーがいる。
若い世代に圧倒的な人気を誇り、10歳~29歳のユーザーが、ユーザー全体の5割程度を占めている。
世界的には、米国で最も高い人気を得ており、1月の時点で約1億1325万人のユーザーがいる。ただし、こうした国別の統計には中国の数字が出ていない。中国のインターネット規制「グレート・ファイアーウォール」が影響しているのだろう。
統計から言えることは、TikTokは世界の中でも米国で人気がある中国製アプリということだ。
TikTokに米政府が神経を尖らせる要因はまず、この点にあるのではないか。
TikTokはなんでも知っている
安全をテーマとする米国の「safewise」は3月1日、「TikTokは安全か」というタイトルの記事を公開している。
この記事は以下のように、TikTokの4つの問題点を指摘する。
●詐欺が多発している
●あなたの情報は、あなただけのものではない
●若いTikTokユーザーは脆弱
●TikTokは心の健康によくない
やはり気になるのは、2番目の情報だろう。他のSNSと同様に、TikTokは膨大な個人情報を収集・蓄積している。
どんな情報を収集しているかは、プライバシーポリシーに書いてある。日本語版のプライバシーポリシーによれば、TikTokは主に、次のような情報を集めている。
●ユーザー名、パスワード、生年月日、Eメールアドレス
●プロフィール動画
●SNS上に公開した動画
●身体的特徴、声の特性
●動画に含まれている周囲の風景
●閲覧した動画や広告
●収集したデータから関心、性別、年齢等の事項を推測
●位置情報
TikTokはFacebookと連携しているため、TikTokを利用しているFacebook上の「友だち」の情報は、TikTokも知っている。
さらに、こうした情報は「サービスを提供するために必要な期間」保有するとしている。法律で禁じられない限り、ずっと保有するつもりだと読み替えていいだろう。
こうした顧客情報は、シンガポールと米国にあるサーバーに保存しているという。
公開されている情報から言えるのは、TikTokが、中国国外にいる8億3000万人について、とても多くの情報を把握しているということだ。
TikTokは「安全保障上の脅威」
この連載の記事
- 第275回 仮想通貨が通貨危機の引き金に!?
- 第274回 公取委、アマゾンとグーグルに睨み 巨大IT規制の動き、日米欧で相次ぐ
- 第273回 ビットコインが急騰した3つの理由
- 第272回 サイバー犯罪集団LockBit、手口はビジネスさながら “ランサムウェア・アズ・ア・サービス(RaaS)”で企業を脅迫
- 第271回 楽天、5年連続赤字でもストップ高のワケ
- 第270回 KDDI、ローソンからのドローン配送に意欲
- 第269回 能登半島地震で浮かんだ、デジタル行政の弱点
- 第268回 ポケモン激似? 「パルワールド」は本格的な係争になるか
- 第267回 巨大IT規制へ 政府、日本版デジタル市場法を準備か
- 第266回 ビットコインETF承認で何が変わる? ポイントは投資家保護
- この連載の一覧へ