日本、米国、オランダが、中国への半導体の輸出を規制する方針を決めたことで、中国側は反発を強めている。
2023年2月15日のロイターの報道によれば、中国の業界団体「中国半導体産業協会」が、輸出規制が実施されると「世界経済に悪影響を及ぼす」などと、規制に反対する声明を出した。
日本ではおおむね「輸出規制」という見出しで報じられているが、海外に目を向けると受け止め方はもっと強烈だ。
たとえば香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストは、輸出規制に関する記事に「テックウォー」との見出しを付けている。
英国のガーディアンも見出しの冒頭に「チップウォー」との言葉を使っている。
日本の報道機関が日本の出来事を報じるときは、どうしても穏当な言葉使いになる傾向があり、反対に海外の出来事を報じるときは、けっこう遠慮のない言葉使いになりがちだ。
外国の報道も同様の傾向があるため、こうした出来事のニュースを見る上では、より身も蓋もない表現の海外の報道が実態を反映していることがある。
”戦争”状態と受け止められている半導体をめぐる米中の対立だが、日本とオランダはなぜ、この対立構図の中に加わることになったのだろうか。
一人では渡れなかった米国
米国商務省は2022年10月7日、中国を念頭に半導体に関連する物品、技術、ソフトウェアの輸出管理を強化する規則を公表した。
米国は輸出規制強化の理由について、大量破壊兵器や人権侵害に寄与する影響を検証した結果であるとしている。
さらに12月には、AIの研究、開発、製造と販売に関連する事業をしている中国企業など36事業者を輸出管理の対象リストに追加している。
日本では、新しい法律や規則案が制定される前に広く意見を募る手続きがあるが、米国も同様にパブリックコメントを募集したところ、様々な意見が寄せられた。
米国情報技術産業協会(ITI)は1月27日、輸出管理を強化する規則に対するコメントを公表し、今回の措置で2023年は4億~25億ドルの損失が見込まれると述べている。
ITIは、インテルやAMD、クアルコムなどの半導体関連企業に加え、GAFAM各社や、東芝、富士通、ソフトバンクなども加盟している業界団体だ。
メンバー企業はまさに世界の半導体やIT分野を代表する企業であるだけに、今回の措置の影響の大きさが理解できる。
ITIはさらに米国企業だけが国際的な競争環境の中で不利にならないように、多国間で連携するよう求めている。
現時点では赤だったのか黄色だったのかはまだ分からないが、世界の半導体やIT産業を引っ張る米国であっても一人では渡れない信号だったことがうかがえる。
こうした流れを経て浮上したのが、日本とオランダの輸出規制への同調なのだろう。
日本とオランダには理由がある
では、なぜ、いちはやく規制に加わったのが日本とオランダだったのだろうか。
どうやら、明確な理由があるようだ。
「チップウォー」の見出しを付けた英国のガーディアンは、日本については東京エレクトロンの存在を挙げている。
東京エレクトロンは半導体製造装置で世界3位のシェアを有している。
この分野でシェア1位を占めるのは米国のアプライド・マテリアルズで、2位はオランダのASMLだ。
この3社のシェアを合わせると、世界の50%を超える。さらに4位のラムリサーチと5位KLA(いずれも米国)も含めれば、世界シェアは7割を超える。
中国の半導体メーカーは、技術力と市場における存在感を増しているものの、現時点では外国製の製造装置に依存している。
中国が新しい製造装置を入手できなくなれば、新しいチップも製造できなくなるという構造が背景にある。
規制には時間がかかる
日米蘭による対中輸出規制と関連があるかどうかは議論が分かれそうだが、このところ台湾の半導体メーカーTSMC株が売られている。日本では同社は熊本工場を建設していることで知られる(関連記事)。
ウォール・ストリート・ジャーナルは2月15日、ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが数十億ドル相当を手放したと報じている。
ブラックロックなどの大手資産運用会社、大手投資会社もTSMC株を売却したという。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、コロナ禍による行動制限が各国で解除されたことで、スマートフォンなどの電子機器の需要が低下し、供給過剰になっていることが要因であるとの見方を書いている。
ただ、この記事には少しモヤモヤ感が残る。
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