人工知能やIoTはどんなデータを生み出すだろうか?
今回の『週替わりギークス』では、人工知能やInternet of Things(IoT)といったテクノロジーが、令和の時代にどんな変化をもたらしていくかについて、トレンドとともにさまざまな角度からの議論をご紹介できたらと思います。
人工知能やサイバーフィジカルに関わる研究開発をリードしている、本村陽一先生(国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター首席研究員)をお招きして、7月1日に開催した「クリエイティブ・ディストラクション・サロン produced by 佐久間洋司」のイベントレポートです。
同サロンは、東京や関東圏に比べると、こういった議論を交わす機会が少ない関西で、若者が中心となって最先端のテクノロジー・ビジネスを学び、議論することを目的にしたもの。7月1日に大阪イノベーションハブ(大阪市)と、公益財団法人 大阪産業局主催でスタートしました。
伊藤忠商事とパナソニックのご協力、一般社団法人 関西経済同友会や、そのほか関係各所のご後援のもと、オール大阪で運営しています。このサロンは招待制ですが、今回の『週替わりギークス』では特別にその議論の一部を紹介させていただきます。
いわゆる「機械学習」や「深層学習」などは何を意味するのか?
この記事で紹介する「人工知能」という言葉は、『ドラえもん』や『ターミネーター』のように知的に振る舞うロボットのようなものではなく、データとアルゴリズムをあわせて認識や推論を実現するプログラムなどを指しています。エンターテイメント作品などには、人格やロボット格のような主体性を持ち、何かを感じたり、何かを考えたりして、さまざまな能力を発揮する人工知能が登場します。しかし、現在の技術ではそこには遠く及んでいません。
また、ニュースなどで繰り返し聞く「機械学習」という技術は、データをもとに、複雑な関係を定量化し、新たなデータを予測できる関数のようなもの。ある入力と出力の組をデータとして与えたときに、入出力(たとえば、問いと答え)の間の関係を学習し、初めての入力(問い)についても出力(答え)が出せる、というイメージです。現状では、特定のタスクを個別に学習させる必要があるので、種類の違うさまざまなタスクを汎用的にこなすことは難しいと言わざるを得ません。
そして、GPUなどの計算機資源が安価かつ扱いやすくなり、インターネットはもちろん、スマートフォンなどが普及しました。巨大なデータが集まることによって、機械学習の1分野であるニューラルネットワークを「深く」した手法が発展します。いわゆる「深層学習」です。
ここから先の記事をご覧いただくために、ごく簡単な説明にとどめますが、深層学習は一般的なデータ分析の手法やソフトウェアで扱うことが難しいほど巨大なデータ、すなわちビッグデータを活かすための有力なツールだと言えます。近年、この深層学習が自動運転やスマートスピーカー、機械翻訳などの応用を実現しているのです。
したがって、包含関係としては「人工知能」という学問の中に「機械学習」という分野があり、その中のニューラルネットワークという手法を発展させたものが「深層学習」になります。いずれも、人間のように知的に振る舞うロボットといった人工知能とは異なります。とはいえ、自動運転のような大きなプロジェクトや、製品検査や異常検知などの個別のシステムなど、私たちの社会に大きな影響を与える実応用を多く生み出しています。
1995年以降、世界は10年ごとのサイクルを繰り返してきた
ここからは、これらのテクノロジーがどのように社会に影響を与えていくのか、本村先生にお話いただいた内容をご紹介いたします。
社会のIT化の経緯という観点から、今までの歴史を振り返ると、1990年頃に「第二次ニューロブーム」があり、その流れを組み、今回の人工知能ブームがあるという背景が伺えます。ただ、もっとも重要なポイントは、10年ごとのサイクルで大きな転換が起こっていることです。
まず、1995年にWindows 95が発売になり、インターネットが標準装備されたことで、インフラとしてインターネットが普及していきました。およそ10年後の2007年にはiPhoneが発表になり、それまでガラケーとインターネットの間にあった分断が克服され、スマートフォンが普及しました。それから10年経った現在、2008年では考えられなかったモバイルファーストなアプリケーションが標準的になって定着しています。
もちろん、インターネットやスマホが普及する前に戻ることは難しいです。このような10年のサイクルが繰り返すという気持ちで、先を考えることが必要だと言います。インターネットはアメリカが勝利し、スマホは中国が勝利したと見ることができ、次こそは日本も見送るわけにはいかない状況です。
次の10年後の社会はどうなるのかと考えたときに、「Society 5.0(ソサエティー5.0)(※1)」などの呼び方で議論されている「サイバーフィジカル社会」が挙げられます。とくに、少子高齢化や労働人口の減少などに直面する課題先進国の日本は、Society 5.0を先立って実現していくことが重要です。
(※1)「Society 1.0」は狩猟社会、「Society 2.0」は農耕社会、「Society 3.0」は工業社会、「Society 4.0」は情報社会。政府広報オンラインサイトでは、「Society 5.0」は超スマート社会とも表現されている。
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