「ダダ漏れ」と呼ばれる言葉が一時期ライブ配信メディアの世界でちょっとした流行語となりました。それは、2010年頃の黎明期の時代です。(外部サイト)
一般的に、個人情報が外部に流出してしまったときのような状況を表す言葉ですが、ここでいう「ダダ漏れ」は「テレビでは見ることができない(もしくは編集をされてしまう)ような、記者会見やイベントなどをライブ配信メディアでリアルタイムに中継する」ことを表します。
iPhone 7/7 Plusが発売された9月16日、ライブ配信メディアのひとつである「ツイキャス」でリアルタイムに中継され、最大で1000名ほどの人たちが同時に集まり、その瞬間を見守っていました。これも「ダダ漏れ」のひとつに相当するのかもしれません。
その間に寄せられた視聴者からのコメントをみると「新しく発売されるiPhone 7/7 Plusに寄せる期待の声」であったり、「現場へ集まるメディアの数の多さの驚きの声」であったり、そのほか好意的なものから批判的なものまでさまざま。
でも、そのさまを見ていて、自分は久しぶりに「ワクワク」した気持ちを感じました。同時に、近年こうした「ワクワク」した気持ちを得られるコンテンツが少なくなってきた、とも感じるのです。
ライブ配信メディアは「テレビの代わりではない」
ライブ配信メディアの一部サービスでは、テレビで放映されていたアニメやドラマといったメジャーコンテンツを、ネットワーク越しにリアルタイムで視聴し、視聴している人たち同士でコメント機能によって感想を共有することができるようになりました。
そして、テレビで良く見かける芸能人や著名人が出演し(テレビのような)ネット独自に制作されるのさまざまな番組・配信もみることができます。
これまでのテレビ的な「カッチリ」としたものではなく、少し「ふわっと」「ゆるい」感じで、画面の向こうの演者と視聴者が、テレビとは違ったこれまでにない近い距離感を意識した番組(配信)が増えてきました。
これまで以上に「ライブ配信メディア自体の認知度を上げていくための手段」として、メジャーコンテンツをリアルタイムに配信したり、ゆるい進行台本であるものの、大まかなストーリーが決まったテレビ的なコンテンツが増えていくのは自然の流れであると思います。
でも、本来、ライブ配信メディアは「テレビの代わりではない」し、「テレビではできない(ワクワクを感じる)コンテンツが見られるメディアであるべき」と思うのです。
なぜ「ワクワク」するコンテンツが少なくなってきたのか
「ダダ漏れ」という言葉は、時代の流れとともにライブ配信メディアの世界でも使われることが少なくなってしまいました。この言葉を言い換えるとするならば「(ヒト・モノ・コトの)過程の可視化」なのかもしれません。
こうした「過程の可視化」を伝えるコンテンツが少なくなってきたのはなぜでしょう。その要因は「視聴環境の変化」と「コンプライアンス遵守の問題」にあると考えています。
近年、ライブ配信メディアの視聴はパソコンからスマートフォンへ移りました。パソコンでの視聴は長時間の視聴に(比較的)耐えることができますが、スマートフォンでは難しいところがあります。「過程の可視化」を一部始終伝えるにはどうしても長時間となり、テレビのようなコンパクトに編集されたモノのほうがスマートフォン視聴には親和性が高いと感じています。
つまり、「過程の可視化を伝えるコンテンツ」はどうしても「よっぽどの興味が無いと長い時間見ていることができない」ですし視聴者の時間を占有してしまいます。やはり、テレビのプロの手によって編集された「コンパクトな情報にはなかなか勝てない」のです。
そして、もうひとつの「コンプライアンスの問題」。
テレビで放映されるコンテンツは、肖像権や著作権をはじめさまざまな法令を守った上で作られます。インタビューや撮影対象となった人の許諾であったり、物事の「ウラ」を取るなど、コンプライアンスを遵守します(たびたび問題が起きることもありますが…)。
これはライブ配信メディアでも同様です。
「過程の可視化」をする上で、台本にない(想定にない)パプニングはこうした「ワクワク」を生み出すことがありますが、それは、時に「リスク」にもなりえます(特に自然災害や事件・事故などの突発的なものはシビアに)。そういったリスクを回避するように考えていくと、どうしても「ワクワク」がないコンテンツへ落ち着いてしまうこともしばしばです。時代の流れ(意識の変化)もありそれは仕方がないことあり、難しいところです。
ライブ配信メディアは「過程の可視化」が得意
しかし、テレビではなかなかできないこの「過程の可視化」は、ライブ配信メディアはとても得意とする分野です。
これまでの代表事例に挙げられるのは「事業仕分け(行政刷新会議)」でしょう。
ニコニコ生放送やUstreamをはじめとしたライブ配信メディアでリアルタイムに生中継され、物事が決められる一部始終を、その場に行かずとも一般の人も見ることができる「議論の過程が可視化された」出来事でした(現在でも「国会生中継」をはじめとする政治の出来事を、テレビだけでなくライブ配信メディアを通じて知ることが可能です)。
また、「平成23年(2011年)東日本大震災」や「平成28年(2016年)熊本地震」、山梨県で記録的な大雪となった「平成26年豪雪」などの自然災害が発生したときには、発災直後、テレビなどのメディアが伝えられない細やかなピンポイントの様子を、リアルタイムに(一般の人の手によって)伝えられたことも。
自然災害、事件・事故といった特別なことだけではなく、「音楽アーティストによる楽曲が完成されるまでの過程」(外部サイト)、「漫画家による作画の過程」(外部サイト)といった、普段、私たちが手にする(目にする)「モノ」ができるまでの過程にもライブ配信メディアが使われてきました。
現在では、良く見かけるようになった(メジャーを目指すような)アーティストやアイドル・タレントがライブ配信メディアを通じて毎日のように視聴者とコミュニケーションをとる配信スタイルも、いわば、応援する「ヒト」の「成長過程の可視化」のひとつだといえます。
このように、画面の向こうにいる人自身に新たなファンがついたり、それをきっかけに、リアルにイベントへ赴いたり、(過程の可視化によって)完成されたモノへの購買へつながるきっかけを作るなど、ライブ配信メディアは「(ヒト・モノ・コトの)過程の可視化」がもっとも得意なメディアであるといえます。
テレビで伝えられた出来事のウラ
iPhone 7/7 Plusが発売された日の朝、テレビでも新しいiPhoneを手に入れるために朝から並ぶ人達の映像をご覧になった方も多いかもしれません。
テレビは瞬間的に圧倒的多数の人に向けて情報を広く伝えることができますが、内容を伝えることが可能な時間の限り(尺)があり、伝えられる内容はほんの一部にしかすぎませんが、プロの手によって、尺に合わせ、忙しい朝に情報を得たい人に向けてコンパクトにまとめられています。
でも「わざわざ行列に並ぶまでの想い」や「苦労して並んだのちにiPhoneを手に入れた感動」は編集によって切り取られてしまいます。
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