Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第12回
【E-DESIGN代表取締役・忽那裕樹氏】「かたち・しくみ・うごき」で都市を変える。行政・経済・市民を繋ぐ「トライセクターリーダー」が始動する、新しい街づくりのOS
【未来・結論】日本全国へ輸出する「新しい街づくりのOS」と、変革を推進する「トライセクターリーダー」の役割
玉置: 単なる空間づくりにとどまらず、「人々の営みをデザインする」という信念を貫いてこられた忽那さんにお伺いします。これまで大阪で実践されてきたプレイスメイキングや官民連携の手法を、日本全国に輸出できる「大阪モデル」として考えたとき、これから先の未来、日本の都市にインストールすべき究極の「新しい街づくりのOS」とは、一言で言うとどのようなものでしょうか?
忽那: 地域課題を突破するためには、行政と経済界、市民の間に立ち、双方が変わることを促す「トライセクターリーダー(中間支援組織の運営者)」の存在が不可欠です。行政のトップに対しても、新しい取り組みを担う権限を現場に付与するよう働きかけていく必要があります。
そして何より大切なOSの根幹は、「反対派やクレーマーとされる市民とも徹底的に対話し、彼らを協力的な『プレイヤー』へと転換させる対話の仕組み」です。
玉置: 反対派を巻き込むというのは口で言うほど簡単ではありませんが、実は僕も産経新聞の記者時代に、読者からのクレーム対応で同じような経験があるんです。最初はもの凄い剣幕で怒鳴り込んでくるんですが、逃げずに2時間、3時間とひたすら相手の話を聞き続けていると、深い信頼関係が築かれていく。最終的には心を開いてくれて、逆に警察の裏情報などの特ダネや、問題解決の糸口をこっそり教えてくれる「最高の協力者」になるんですよ(笑)。
忽那: まさにそれです! 激しいクレームを言ってくる人って、実は誰よりもその街のことが気になっていて、ものすごい熱量とエネルギーを持っている人たちなんですよ。
具体例として、僕たちが関わった世田谷区での活動があります。最初はプロジェクトに対して激しいクレームを上げていた住民がいたのですが、僕たちは彼らを排除せずにとことん対話を重ね、ワークショップなどでプロジェクトに巻き込んでいきました。すると、最終的にはその反対していた方々が、自ら率先して草抜きなどのコミュニティ活動の主導的役割を担うプレイヤーになってくれたんです。
一見関わりにくいと感じる人に対しても逃げずに正面から向き合い、ユーモアを交えながら楽しさを共有して巻き込んでいく。これは安藤忠雄氏から学んだ教訓でもあります。安藤さんは、どんなに困難な現場でも、地元の反対派の懐に真っ直ぐ飛び込んでいき、最後には相手をファンにしてしまうような圧倒的な「関西流」のコミュニケーションの強さを持っています。
複雑な利害関係を持つステークホルダーの意見を丁寧にセグメント化し、問題を一つずつ解決していくことが成功体験を生み、さらなる協力関係をスパイラルアップさせます。行政、経済界、市民を繋ぐプラットフォームの上で、徹底的な対話を通じて全員を当事者(プレイヤー)に変えていくこと。このトライセクターリーダーとしての仕組み作りこそが、これからの日本の都市にインストールすべき、究極の「新しい街づくりのOS」だと確信しています。
【編集後記:玉置の眼】
インタビューを終えて、心地よい「人肌の温かさ」のようなものが胸に残っている。
忽那裕樹さんという人は、どこまでも「現場の人」であり、何より「対話の人」だ。彼が牽引するプレイスメイキングが、なぜあれほどまでに人の心を惹きつけるのか、その理由が霧が晴れるように分かった気がする。
全体を振り返ってみて改めて痛感するのは、私と忽那さんが共に審査員として関わった「おおさかカンヴァス」というプロジェクトの計り知れない熱量と意義だ。当時はただ無我夢中で、公共空間の規制の壁にアートというドリルで穴を開けるクレイジーな実験を繰り返していた。しかし、今や全国から熱い視線を集める「大阪のパブリックスペースの先進性」の原点は、間違いなくあそこにあったのだ。
あの水辺での無謀なチャレンジが「着火点」となり、全国の河川敷を楽しく変えた「ミズベリング」の波を生み、うめきた・グランフロント大阪の成功を引き寄せ、そして現在進行形のグラングリーン大阪という世界最大級の都市公園開発へとダイナミックに繋がっている。さらにそのうねりは、2025年万博の「静けさの森」で紡がれた命のリレーを経て、2030年の夢洲IRという未来のエンターテインメント空間へと見事に地続きで結実しようとしている。
私たちはいつの間にか、街に並ぶ「ボール遊び禁止」「飲食禁止」といった看板の文字に慣れ、公園とは制限だらけの場所なのだと諦めてはいなかっただろうか。しかし忽那さんは、その「禁止」の裏側にある、行き場をなくした市民のエネルギーを決して見逃さなかった。
最も印象的だったのは、激しい反対派やクレーマーをも、徹底的な対話によって協働の「プレイヤー」へと変えてしまうというエピソードだ。私の記者時代のクレーム電話が特ダネに変わった経験とも完全に符合するが、人の持つ強烈な熱量は、向き合い方一つで街を動かす最大の原動力に反転する。利害関係を丁寧に紐解き、相手の懐に飛び込んで楽しさを共有していく「関西流」のコミュニケーションは、スマートな都市計画の教科書には絶対に載っていない、最強の実践的OSである。
完成された美しい「かたち」を上から押し付ける街づくりの時代は終わった。街は、誰か一人の天才ヒーローが作るものではない。巻き込まれた風変わりなアイデアを持った市民も、最初は怒鳴り込んでいたおっちゃんも、いつの間にかみんなが当事者(プレイヤー)になっていく「うごき」の渦そのものが、最も美しい都市の風景なのだ。
私自身の社会人40周年、そしてアスキーでの新たな挑戦もまた、そんな幸福な「うごき」の渦を作り出す着火点でありたいと、強く願っている。
●玉置泰紀プロフィール
1961年大阪府生まれの編集者、プロデューサー。同志社大学卒業後、産経新聞記者、福武書店(現ベネッセ)を経て角川書店に入社。「関西ウォーカー」など4誌の編集長や総編集長を歴任した。現在は角川アスキー総合研究所に所属し、「エリアLOVEウォーカー」総編集長を務める傍ら、国際大学GLOCOM客員研究員や京都市埋蔵文化財研究所理事、東京文化資源会議幹事、国際文化都市整備機構理事など、地域の文化・観光振興に幅広く携わっている。なお、社会人40周年の節目となる2026年6月30日をもってKADOKAWAを卒業し、7月からはフリーの立場から、アスキーでの連載・インタビュー活動など、メディアの活動を継続していく。
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